七面鳥、復「コー」の合唱 門前・阿岸「町おこし原点」出荷開始

飼育する七面鳥を見詰める大村代表=12日午後3時10分、輪島市門前町小山

 輪島市門前町小山の山あいで、150羽の七面鳥が「コー」と元気な大合唱を響かせていた。七面鳥を飼育・販売する「阿岸(あぎし)の七面鳥」は能登半島地震で見送っていた肉の出荷を今月から再開した。2007年の地震の際は鳥に病気が広がり殺処分で全滅したが、今回は施設の被害も比較的軽微で、大村正博代表(72)は「地元に愛されてきた七面鳥を復興の目玉にしたい」と決意を示した。(社会部・北村拓也)

 山あいにぽつんとある鶏舎をのぞくと、七面鳥が所狭しと動き回っていた。1羽が鳴くと、他もそろって鳴き声を上げる。「地震から2、3日はストレスで食欲が落ちたけど、今は問題ない。寒い時期は食べて脂肪を付けないと」。大村さんは、エサをついばむ七面鳥に目を細めた。

 今回の能登半島地震で、鶏舎や加工施設には壁にひびが入るなどの被害は出たものの、使用に支障はなく、肉の保存や出荷に欠かせない冷蔵庫、冷凍庫も壊れなかった。水は地下からくみ上げ、電気は1月末に復旧した。

 同所の七面鳥の飼育は、前身の生産組合が発足した1988(昭和63)年に始まった。ピーク時は約1千羽を生産していたが、高齢化などから組合が解散。大村代表は2007年1月に運営を引き継いだ。その2カ月後に地震に見舞われた。

 当時は水道管が破裂し、病気になった全約550羽の焼却処分を余儀なくされた。以降も新型コロナウイルスの感染拡大に伴う注文減少や、ロシアのウクライナ侵攻によるエサ代の高騰など苦難の連続だった。経営は楽ではないが、大村代表は「門前の七面鳥をなくしたくない」との一心で踏みとどまってきた。

 大村代表によると、七面鳥の主な生産場所は全国でも門前を含めて3カ所。県内外の高級ホテルやフレンチレストランなどから引き合いは多く、元日の地震以降は取引先から励ましの声が多く届き、名古屋の星付きフレンチレストランからは、支援の意味も込めて注文が届いた。

 冷凍品の発送ができなかったため、出荷を見送っていたが、今月から羽咋まで足を伸ばして商品を送っている。

 今回の地震では、輪島の料理人の多くが炊き出しなどの奉仕活動に励む。大村代表は「七面鳥の飼育は町おこしが原点。料理人や農家と手を取り合い、復興を考えていきたい」と話した。

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