被災者の胸に民謡響く 珠洲出身の歌手・加賀山さん 富山の2次避難所慰問

慰問に訪れた加賀山さん(奥左から2人目)と砂取節を踊る珠洲の避難者=12日、富山市内のホテル

  ●ふるさと思う機会に

 能登半島地震で被災した珠洲市民が2次避難する富山市のホテルテトラリゾート立山国際で12日、珠洲市出身の民謡歌手・加賀山昭さん(77)=金沢市=が弟子らとともに慰問に訪れ、心に染みる歌と演奏で励ました。能登の民謡を中心に18演目を披露し、「珠洲の景色が心に浮かんだ」「元気が出た」と涙ぐむ人も。約60人の被災者は民謡の力に触れ、避難生活の活力を養った。

 ホテルには1月20日に珠洲市からの集団避難者44人が第1陣で到着し、2月2日までに計120人が移動した。12日時点で116人が身を寄せ、その中には加賀山さんから月1回の指導を受ける珠洲民謡会の会員が3人いる。10日に大兼政忠男会長(76)=珠洲市大谷町=が「先生の顔を見たい。元気づけてもらえないか」と加賀山さんに連絡したところ、急きょ慰問の民謡ステージを開くこととなった。

 当初の出演は加賀山さんと長女の紋(あや)さん、民謡加賀山流の石川、富山の門下生数人だったが、協力の輪が広がり、民踊の兼生会、福井県の歌手・戸田弓子さんも駆け付け計12人となった。

 ステージは「珠洲山曳(び)き唄」で幕を開け、加賀山さんが力強い歌声を響かせた。「能登麦屋節」「能登ちょんがり節」「珠洲起舟祝い唄」「越中おわら節」「こきりこ節」「三国節」などが次々と披露され、被災者は手拍子を打ちながら聞き入った。

  ●砂取節で踊りの輪

 珠洲市に伝わる石川県無形民俗文化財「砂取節(すなとりぶし)」では、同ホテルに避難中の珠洲民謡会員2人が歌声を響かせ、大谷地区の被災者5人が踊りの輪をつくった。

 砂取節を巡っては、珠洲市馬緤(まつなぎ)町で50年以上続いてきた「砂取節まつり」が少子高齢化の影響で昨年8月限りで取りやめとなった。同町から避難している廣山淑恵さん(80)は「踊りはもう最後だと思っていて、まさか避難中にまた踊れるとは。ふるさとが懐かしい」と喜んだ。小恵美子さん(59)は義母と輪に加わり、「2人で踊るのは初めて。お母さんの元気な姿も見られてよかった」と涙目で振り返った。

 大兼政さんは「今回は自分たちのために石川、富山、福井の皆さんに集まってもらった。避難者は良い息抜きになったと思う」と感謝した。発災後、初のステージとなった加賀山さんは「皆さんに喜んでもらえて良かった。また機会があれば協力したい」と話した。

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