目覚めには早すぎる

 九州では絶滅したらしいが、昨年の「被害続々」というニュースにいささか恐れをなした。北海道で飼育牛66頭を襲ったとされるヒグマで、流行語の一つにもなった「OSO(オソ)18」をはじめ、クマによる人身、家畜被害が列島で相次いだのは記憶に新しい▲〈月光の分厚きを着て熊眠る〉高野ムツオ。クマが月明かりをまとって冬ごもりをしている、と。困り者の猛獣も今時分は眠りの中…のはずだが、秋田市で今月、体長1メートルほどのクマが現れたという▲暖冬のため、初春と間違えて目覚めたらしい。これだけでなく、スキー場に雪は積もらず、真冬の衣服は売れず、東北では凍るはずの滝が凍らずに観光客の足が遠のく▲生育が早く、値段もお手頃の野菜があったりと、暖冬も悪いことばかりではない。だとしても「今年1月の世界の平均気温は観測史上、最高だった」という最近の発表に接すると、先が案じられてくる▲石垣りんさんに「二月のあかり」という詩がある。〈二月には/土の中にあかりがともる/…草の芽や/球根たちが出発する/その用意をして上げるために〉▲「あかり」とは春の兆しのことだろう。この時季に冬の厳しさがあってこそ、春の息吹が心地よい。クマも、草の芽や球根も、目覚めるのは凍土にあかりがともる頃がいい。(徹)

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