大型改良で走りが洗練された印象。選ぶべきはアシンメトリックLSD装備のMT車/マツダ・ロードスター試乗

 モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太が『マツダ・ロードスター』に試乗する。2015年5月に登場した4代目ロードスター(ND)。発売から9年目を迎えても人気は衰えることなく、世界中で愛されている和製スポーツカーだ。2023年10月に走りや装備面において大幅改良を実施。より深く、研ぎ澄まされた走りを披露する最新ロードスターの魅力を深掘りしていこう。

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 ディファレンシャルギヤ(デフ)には、差動制限機能を持たないオープンデフと、差動制限のあるLSD(Limited Slip Differential)に大別できる。

 デフはスムーズに曲がるために必要な装置だ。例えば、交差点で左折するシーンでは(後輪駆動車で説明)、左側後輪よりも右側後輪のほうが大きな半径の弧を描きながら移動しなければならない。外側(右側)輪は内側(左側)輪よりもたくさん回転しないと、スムーズに曲がることはできない。

 駆動輪に生じるこの回転差を許容する装置がデフだ。歯車の組み合わせにより、駆動輪左右の回転差(差動)を許容する。路面からの抵抗が大きくなる内輪の回転を抑えつつ、抵抗が小さい外側輪の回転を高める働きをする。この結果、クルマはスムーズに旋回できるようになる。

 デフを使うと曲がりやすくなって便利になるが、苦手なシーンもある。例えば、旋回時に外側輪に大きな荷重がかかるシーンでは、本来なら駆動力をかけ続けなければいけないにもかかわらず、外側輪から荷重を抜く一方で、荷重が抜けている内側輪に回転を伝えてしまうからだ(下手すると空転する)。そうなると、前に進まなくなってしまう。

 こうした困りごとを回避するのが差動制限機能を持つLSDだ。左右輪に伝わるトルク差がある程度になると、それ以上はトルク差が増えないように制限をかけ、前に進む機能を維持する。その極端な状態がデフロック(直結)だ。差動制限を強くするほど、回転差を制限する力が強くなり曲がりにくくなる。

 2023年10月に大幅商品改良を行ったマツダ・ロードスターは、「人馬一体」の走りの楽しさをさらに高めるため、いくつかの手を打った。そのひとつがLSDで、新開発したアシンメトリックLSDを設定した。

ロードスター・ソフトトップ S スペシャルパッケージ。駆動方式はFR、トランスミッションは6速MT。ボディカラーは、エアログレーメタリック。車両価格は308万7700円(税込)。
ボディタイプはソフトトップモデルとRF(リトラクタブルハードトップ)のふたつ。
ロードスター RF VS。駆動方式はFR、トランスミッションは6速AT。ボディカラーはマシングレーメタリック。車両価格は418万2200円(税込)。
ソフトトップ仕様のボディサイズは全長3915mm、全幅1735mm、全高1235mm、ホイールベース2310mm。

 マツダの開発陣が着目したのは、減速旋回時に差動制限力がもたらすヨー減衰の効果である。程度の問題はあるが、旋回減速時(スロットルオフのコースティング状態)にヨー減衰効果を発生させるとリヤが安定する。

 現行ロードスターに乗ったことがあり、ワインディングロードを相応のペースで走ったことがあるなら経験済みだと思うが、コーナーに進入するためにアクセルペダルを戻し、前荷重にしつつステアリングを切り込むと、リヤがフワッと浮き加減になる。

 このヒラヒラ感が現行(ND型)ロードスターの美点でもあるのだが、「おや? この姿勢でそのまま進入して大丈夫?」との不安感を与えかねない動きでもある。ロードスターの持ち味であるヒラヒラ感を維持しつつ、コーナー進入時の安定性と安心感を高めるのが、アシンメトリックLSDの狙いだ。

 大幅商品改良前のロードスターには、アシンメトリックLSDと同じGKNドライブラインジャパン製のスーパーLSDが設定されていた(どちらもマツダと共同開発)。アシンメトリックLSDは、円すいクラッチ型のスーパーLSDをベースに、カム機構を加えた構造となっている。

 スーパーLSDは加速側(ドライブ側)と減速側(コースト側)で同じ(対称な=シンメトリックな)差動制限力を備えているのに対し、アシンメトリックLSDは加速側と減速側で異なる差動制限力を備えている。だから、アシンメトリック(非対称)。

 しかも、他社の多くの適用例と異なり、加速側よりも減速側の差動制限力が強い(デフロック寄りとした)のが特徴。加速側のみ差動制限力を備えたLSDを1 WAY(ワンウェイ)、加速側と減速側で同じ差動制限力を持たせたLSDを2 WAY(ツーウェイ)、加速側よりも減速側に弱い差動制限力を持たせたLSDを1.5 WAY(イッテンゴウェイ)と呼んだりする。

 その伝でいくと、加速側よりも減速側の差動制限力が強いアシンメトリックLSDは“逆1.5 WAY”ということになる。ヨー減衰(クルマの旋回運動を抑制する効果)を意図して強めたということだ。

 左右の荷重移動量が大きくなるワインディングロードやサーキットでの減速旋回時にヨー減衰を高めた一方で、交差点を曲がるときのような、左右の荷重移動量が小さいシーンでは、イニシャルトルクを弱める(差動フリクションを弱める)ことでヨー減衰を小さくしている(オープンデフ側にシフトさせた)。ND型ロードスターの持ち味であるヒラヒラ感をより高める方向だ。

 スーパーLSDは2本のコイルばねでイニシャルトルクを付加していた。2ヵ所で押さえつけていたために荷重が分散し、細かく観察するとスティックスリップのような現象が起きていたという。

 アシンメトリックLSDはサイドギヤとカムリングの間に皿ばねを配置してイニシャルトルクを与える構造のため、荷重が全周に均等にかかる。そのため、イニシャルトルクを落とすことができた。結果、差動フリクションが弱くなり、普段使いでの曲がりやすさにつながるというわけだ。

 ワインディングロードでの試乗だったし、左右の荷重移動量が小さなシーンでの旋回について意識が向いていなかったこともあり、イニシャルトルクの変化がヒラヒラ感に及ぼす効果は確認できていない(言い訳です)。

スカイアクティブ-G 1.5エンジンは国内ハイオクガソリンに合わせた専用セッティングを施すことで、さらなる高効率化を実現。加速の伸び感を強化しながら、出力を3kW向上している。
MT車にはサーキット走行に最適化したダイナミック・スタビリティ・コントロール(DSC)の新制御モード『DSC-TRACK』を追加している。
ホイールデザインも変更されている。軽やかさと機能美を表現しながら、ホイール中央から周辺へまっすぐ伸びたスポークが、車軸からタイヤに動力を伝えるデザインとすることで、スポーツカーとしての性能の高さや強さを表現している

 左右の荷重移動量が大きな旋回減速シーンでの、アシンメトリックLSDの効果は歴然としている。リヤがフワッと浮くような素振りを見せることがないので、不安感を抱くことなく、言い換えれば自信を持ってコーナーに進入していくことができる。減速側から加速側に移行する際のつながりはスムースで、運転のリズムを崩すことがない。

 大型商品改良版は減速から加速へのつながりがよりスムースになり、クルマの動きがワンランク洗練された印象。アシンメトリックLSDを標準装備するのはS Special Package、S Leather Package、S Leather Package V Selectionの各6MT車、それに6MTのみを設定するRSとNR-Aである。この新デバイスを選択する価値は多いにある。

ロードスター RF VS。エクステリアデザインでは、デイタイムランニングランプの変更によって、生き物の瞳のような表情を維持しつつ、スピード感やライトウエイトスポーツカーらしさを表現している。
ロードスター RF VS。リヤコンビネーションランプは、歴代のロードスターに共通して採用されている円形+楕円のモチーフをより鮮明に表現している。
スマートフォンからアプリを通じてクルマの状態が確認できたり、万が一の事故の際には自動で救急車を手配するコネクテッドサービスも採用している。
マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール(MRCC)は、設定した速度での定速走行や車間距離を一定に保って走行するための運転支援機能。フロントグリル左側に設けたレーダーセンサーが走行車を検知することで、定速走行や追従走行を支援する。
インテリアには8.8インチのセンターディスプレイを新たに採用。
ロードスター・ソフトトップ S スペシャルパッケージ
ロードスター・ソフトトップRS。駆動方式はFR、トランスミッションは6速MT。ボディカラーはソウルレッドクリスタルメタリック。車両価格は367万9500円(税込)。

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