社説:財政の正常化 異常な膨張構造、見直せ

 先進国最悪の借金財政を、どう健全化するのか。政府、与野党とも真剣に議論すべき時だ。

 政府は財政の中長期試算を公表した。財政の健全度を示す「基礎的財政収支」(プライマリーバランス)は、2025年度に黒字化を目指すとしているが、仮に高い経済成長を実現しても赤字になる見通しという。

 岸田文雄首相は国会で、「歳出改革などが進めば」との条件を加えて「25年度黒字化は視野に入る」と主張している。一方で政府内には、6月の経済財政運営の指針「骨太方針」に財政健全化の新目標を掲げ直す動きもある。

 相次ぐ災害への対応、急速に進む少子高齢化に伴う人口減少といった財政負荷が増す現状に加え、長期金利の上昇による国債(借金)の利払い増など新たな懸念も強まっている。

 もはや楽観的な仮定を重ねて、ごまかすのは限界だろう。財政の実態を広く国民に周知し、負担の在り方とともに、実現できる健全化策と目標の明示を求めたい。

 試算では、国内総生産(GDP)の実質成長率が1.3~1.6%程度の高成長でも、25年度は1.1兆円の赤字になる。成長が実現できないと2.6兆円の赤字。従来程度の成長率なら、試算の最終年度の33年度まで一度も黒字転換しない見込みという。

 岸田政権は物価高や少子化への対策、防衛費「倍増」などを掲げ、財政膨張の圧力を強め続けている。片やどう負担するかの議論は避け、効果が疑わしい定額減税まで押し通す構えである。

 国、自治体を合わせた長期債務残高は1200兆円を超える。このまま財政規律を取り戻さないと、市場の信認を揺るがし、経済の足かせや次世代の負担増につながるリスクが高まるばかりだ。

 日銀が国債を大量に買い支える「異常」な金融緩和を戻そうと検討する中、財政の正常化も表裏一体で進めることは欠かせない。

 財務省は国債の金利が24年度より0.5ポイント上がると、27年度に借金返済と利払いが7.2兆円増え、約35兆円になると試算する。

 超党派の国会議員連盟や、民間の政策提言組織「令和国民会議」(令和臨調)は、財政の推計や検証を専門家らが中立的に担う「独立機関」の創設を打ち出した。

 海外では、米英韓など経済協力開発機構(OECD)加盟国の約8割が導入している。放漫財政に歯止めをかけるため、日本でも与野党で前向きに協議したい。

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