始まりは一本の電話だった。
昨年12月13日夕。胃腸炎で寝込んでいた「ももいろクロおばあZ」の西垣幸子(53)=兵庫県新温泉町=のスマートフォンが鳴った。新温泉町役場からだった。
「スターダストプロモーションからお電話がありました。12月31日は皆さんの予定は空いていますか?」
頭がふらふらだった西垣は「スターダストプロモーション」と「12月31日」という単語を聞いてハッとした。
まさか-。横浜アリーナで大みそかに開かれる年越しカウントダウンライブ「ももいろ歌合戦」への出演オファーだった。
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百田夏菜子(29)、玉井詩織(28)、佐々木彩夏(27)、高城れに(30)の4人組アイドルグループ「ももいろクローバーZ(ももクロ)」。いつも全力のパフォーマンスと飾らないキャラクターで、子どもからお年寄りまで幅広く愛される。ファンは「アイドル戦国時代」になぞらえて「モノノフ(武士)」と称され、プロ野球・楽天の田中将大や阪神の佐藤輝明など有名人も名を連ねる。
「私はももクロに救われたんです」と西垣。2020年11月、飼っていたヨークシャーテリアの「さすけ」が16歳で死んだ時、西垣は毎日泣いていた。ある日、ふと目にしたのがももクロのライブ映像だった。前向きな歌。コミカルでかわいいダンス。全力で歌って踊るメンバーの笑顔を見ていると、不思議と元気が湧いてきた。
22年5月、隣町の同県香美町で開かれたライブに初参加。約700席の文化ホールは、ステージの4人まで手の届くような距離だった。その年の秋、近所の女性(69)から「敬老会の出し物何かない?」と尋ねられ、「ももクロしよ!」と即答。「クローバー」をもじった「ももいろクロおばあZ」と名付けて活動を始めた。
平均年齢62歳の女性5人が、赤、黄、ピンク、緑、紫の「ももクロカラー」に身を包み、ももクロの曲を踊る姿は交流サイト(SNS)で拡散。NHKの「おはよう日本」でも紹介された。おばあZに注目が集まる中、ももクロの所属事務所スターダストプロモーションから「ももいろ歌合戦」への出演オファーが舞い込んだ。
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17年から続く「ももいろ歌合戦」は、ももクロが豪華ゲストと届ける年越しカウントダウンイベント。西垣家では、大みそかの夕方までに全ての家事や風呂を済ませ、テレビでももいろ歌合戦を観戦しながら年を越すのが恒例だった。すでに発表されていた第1弾出演者には、泉谷しげる、氣志團、水前寺清子、笑福亭鶴瓶、のん、西川貴教などそうそうたる顔ぶれが並んでいた。
西垣は直ちにおばあZのメンバー全員に電話した。「ひえー!」「絶対行く!」と驚きの声。少し天然な赤色のれいちゃん(69)は「お正月は家のことがあるし、あんたらだけで行って来てえな」とためらっていたが、家族の後押しで夜には乗り気になってくれた。
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大みそかの「ももいろ歌合戦」に出演した「ももいろクロおばあZ」。ももクロと共演した夢のステージまでの道のりを振り返る。(敬称略) (長谷部崇)