社説:クマ被害で対策 共存へ生息調査を急げ

 クマによる人身被害の多発を受け、環境省は4月にも捕獲を国が支援する「指定管理鳥獣」に追加する方針だ。

 住民の安全安心を優先した対策強化策とはいえ、過度な捕獲につながらないように保護への目配りも欠かせない。

 指定管理鳥獣は深刻な被害を及ぼす鳥獣を集中的、広域的に管理するため、環境相が定める。現在はニホンジカとイノシシが対象で、都道府県などが行う捕獲や生息状況調査といった事業が国の交付金の対象になる。

 環境省によると、ヒグマやツキノワグマが34都道府県に生息。近年は活動エリアが人里近くまで広がり、北海道のヒグマは30年間で2倍以上に増えたという。

 クマが出没する背景には、餌のドングリなどの不作に加え、過疎化に伴い里山が荒廃し、クマが人の生活圏に近づきやすくなったことが指摘される。人への警戒心が薄れ、市街地にも出没する「アーバンベア」も問題化している。

 2023年4月~24年1月のクマによる人身被害は、東北や北海道など19道府県の計197件、死者6人を含む218人に上った。記録がある06年度以降で最悪の事態だ。京都でも昨年8月、京都市左京区の比叡山で女性が襲われるなど4年連続で被害が報告されている。

 絶滅の危険性が高い四国のツキノワグマを除き、クマ類を指定管理鳥獣に追加し、被害防止対策を講じるが、指定種の中ではクマは個体数が少なく繁殖力も低い。九州のツキノワグマの絶滅は過度な捕獲が一因とされ、北海道でも急速な減少を招いた時期もある。

 対策を議論した環境省の専門家検討会が、生息環境の改善などクマの「保全」にも注文を付けたことに留意したい。ただ、捕獲と保護の両立は容易ではない。

 まずはクマの正確な生息調査が前提となる。県ごとの調査で個体数は数万頭と推定されているが、クマは県境を越えて移動し、実態ははっきりしない。検討会は「分布や個体数などのモニタリングを基に適度な捕獲を行う」と提言しており、環境省は調査方法や時期などを統一すべきであろう。

 人の生活圏に侵入させない「ゾーニング」といったクマの生態に合わせた被害防止も重要となる。都道府県ごとでは対応は難しく、隣接府県とも連携した保護管理策が必要となる。一朝一夕には難しいものの、クマとの共生に向けて里山の保全再生など長期的視点に立った対策も欠かせない。

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