社説:自民の裏金調査 不信が深まるばかりだ

 こんな調査では実態把握にもならず、かえって政治不信が深まるばかりだろう。

 自民党が、派閥の裏金事件を受けた党国会議員アンケートの結果を公表した。2022年までの5年間で、政治資金収支報告書の不記載があったのは85人、総額は約5億8千万円に上った。

 アンケートは不記載の有無と金額を聞く2問だけで、裏金づくりの仕組みも使い道もただしていない。政治資金規正法違反で立件され、党を離れた3人の議員は対象外としている。

 森山裕総務会長ら党幹部による聞き取りも行っているが、対象は不記載を申告した85人という。安倍派では二十数年前から還流の慣行があったとされる。にもかかわらず、当時会長だった森喜朗元首相らに事実確認すらしていない。

 刑事責任は時効にかからない5年だが、問われているのは政治責任である。期間や対象を限らず、自民の病根を究明せねばならない。

 不記載の金額は二階俊博元幹事長の3526万円が最も多く、1千万円を超える議員が20人いた。

 立件された3人の裏金は、いずれも4千万円以上だった。何を根拠に捜査の線引きをしたのか。検察の不可解な姿勢が改めて浮き彫りになったともいえよう。

 裏金を受け取っていた議員は相次いで収支報告書を訂正しているが、秘書や会計責任者の責任として、自分は「知らなかった」との弁明が目立つ。

 二階氏は、22年までの3年間で約3400万円もの「書籍代」を追記した。安倍派幹部「5人組」の萩生田光一前政調会長と高木毅前国対委員長は、支出の詳細を「不明」として提出し直した。

 不記載分は、政治資金として使っていなければ、脱税となる可能性がある。形式的な訂正でうやむやにすることは許されない。

 野党側が求める衆院の政治倫理審査会に、裏金を得た議員は出席し、事実をつまびらかにすることが第一歩である。併せて、森氏の参考人招致も求めたい。

 折しも、元安倍派事務総長の松野博一前官房長官が、裏金事件で辞任直前だった昨年12月の2週間に、約4600万円の内閣官房報償費を支出したことが判明した。

 岸田文雄首相には、自身の祝賀会を巡り脱法的な寄付の疑いまで浮上している。

 根本にある「政治とカネ」の不透明な在り方に切り込まねば、政権の先行きは開けまい。

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