【インドネシア】中韓越がEV攻勢、自動車展[車両] 政策追い風に現地生産計画も続々

インドネシア市場への参入を発表したビンファストのEV「VF5」にサインするジョコ・ウィドド大統領=15日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

インドネシアの首都ジャカルタで15日、自動車展示・販売会「インドネシア国際モーターショー(IIMS)2024」が開幕した。ベトナムの電気自動車(EV)メーカー、ビンファストがIIMSでインドネシア市場への参入を正式に発表し、先に乗用車市場への参入を明らかにしていた中国のEV最大手の比亜迪(BYD)も多様なラインアップをそろえた。また政府が打ち出すEVの現地生産を促す優遇政策に乗る形で、中越2社に加えて韓国の現代自動車も新たなEV生産計画を明らかにした。ハイブリッド車(HV)の投入を進める日系とは異なるEV重視の姿勢が顕著に表れている。

インドネシア政府は2023年に現地調達率40%を満たした車種に付加価値税を減免する支援策を実施。同年末には、現地生産を条件にEVの完成車(CBU)輸入で優遇を付与することを決めた。こうした政府のEV支援政策の流れに乗る形となったのが、IIMS初出展となったビンファストやBYDだ。

■ビンファスト、4モデル投入

インドネシア市場に初参入したビンファストは、小型スポーツタイプ多目的車(SUV)のEV「VFe34」「VF5」「VF6」「VF7」を投入すると発表した。ビンファストの海外進出先として、インドネシアはアジア地域で初となる。

VFe34は第1四半期(1~3月)中に発売し、第2四半期(4~6月)にVF5を投入する計画。具体的な価格や、VF6、VF7の投入時期は明らかにしていない。

ビンファストが第1四半期中に発売するEV「VFe34」=15日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

同社が先に明らかにした、インドネシアでの工場建設計画について、ビンファスト・インドネシアのトラン・クオック・フイ最高経営責任者(CEO)は、年内には着工すると説明した。

ビンファストのザッカリー・マーク・ホリス販売担当バイスプレジデント(アジア市場)は、東南アジアにおいてインドネシアを「キーポテンシャルマーケット」に位置付けていると説明。工場の年産能力は中長期的に5万台に高め、95%を自動化ラインとするという。工場の設立で、グローバルサプライチェーン(供給網)の主要拠点として整備する方針を明らかにした。

インドネシアからの輸出については、市場を見ながら判断すると述べた。

■BYD3車種の価格発表、4.25億ルピアから

IIMSに初出展した、BYDのインドネシア法人BYDモーター・インドネシアは、1月中旬の乗用車市場への正式参入に合わせて公開していたEV3車種の価格を発表した。小型ハッチバック「ドルフィン」の税金や車両登録証の取得手数料などを含めたジャカルタでのオンザロード(OTR)価格は、4億2,500万ルピア(約410万円)となる。

BYDモーター・インドネシアは、事前に投入を発表していたEV3車種の価格を発表した=15日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

このほか、小型SUV「ATTO3(アットスリー)」が5億1,500万ルピア。セダン「シール」は6億2,900万ルピアで、全輪駆動のパフォーマンスタイプが7億1,900万ルピアと発表した。

BYDはまた、高級多目的車(MPV)の「DENZA(騰勢)」を披露した。現時点では展示のみで、今後投入するかどうかは、消費者の反応を見極めていくという。

BYDはIIMS2024で最も広いブースに出展するなど、市場でのプレゼンス向上を図っている。

BYDの劉学亮(りゅう・がくりょう)ゼネラルマネジャー(アジア・太平洋地域担当)は15日の会見で、BYDは23年のEVとプラグインハイブリッド車(PHV)の販売台数が全世界で1位となったと述べ、「これから最高の技術やサービスをインドネシアで提供していく」と力強く語った。

現地生産の計画について、BYDモーター・インドネシアのイーグル・ザオ社長は、年内にも工場を着工したい意向を示した。

BYDが披露した高級MPV「DENZA(騰勢)」=15日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

■現代自、コナEVを現地生産計画

現代自動車はEV「コナ・エレクトリック」を現地生産する計画を明らかにした=15日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

インドネシアにすでに生産拠点を持つ韓国の現代自動車は、SUVのEV「KONA(コナ)・エレクトリック」を現地生産する計画だと明らかにした。「アイオニック5」に次ぐ2車種目のEVとなる。

価格や生産開始時期などについては追って発表するとしたものの、インドネシア販売会社ヒュンダイ・モーターズ・インドネシア(HMID)のフランシスカス・スルジョプラノト最高執行責任者(COO)は、インドネシアでバッテリーの生産を開始することで、価格を引き下げられるほか、現地調達率も60%以上に引き上げられるとの見方を示した。

現代自は、韓国バッテリー大手LGエナジーソリューションと共同出資して設立したバッテリーセル工場「HLIグリーンパワー」と、現代自の現地生産会社と現代自グループ傘下の部品メーカーが建設中のバッテリーシステム工場「ヒュンダイ・エナジー・インドネシア」の2拠点が、24年中の完成を予定している。

HMIDは先に、24年はガソリン車とEVを合わせて5車種を投入する方針を発表している。フランシスカス氏は、今後はEVを1年に1台のペースで投入していくと明らかにした。

現代自はIIMSで、アイオニック5にインドネシアの伝統的なろうけつ染め「バティック」の模様を施した限定モデルのほか、コンセプトモデルの「SEVEN」を披露した。

■トヨタ、高級MPVでハイブリッド投入

トヨタ・アストラ・モーター(TAM)は、高級MPV「ヴェルファイア」を発売した。HVのみを販売する=15日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

中韓越メーカーがEVの新車や生産計画を発表した一方、トヨタ自動車のインドネシア現地販売会社トヨタ・アストラ・モーター(TAM)は、高級MPV「ヴェルファイア」のHVの発売を発表した。すでに投入済みの高級MPV「アルファード」よりも上位に位置付け、HVのみを販売する。

エンジン排気量は2.5リッター。ジャカルタでのOTR価格は18億270万ルピアから。日本から完成車(CBU)を輸入販売する。

TAMはまた、燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」を展示するなど、脱炭素化に向けた「マルチパスウェイ・アプローチ」を改めてアピールした。EVからHV、FCV、バイオ燃料の利用など、地域に合わせた幅広い選択肢を提供し続ける姿勢を示した。トヨタのインドネシア現法はこのほど、国営石油プルタミナと水素自動車エコシステムの構築に向けて協業することが明らかになっている。

TAMのヘンリー副社長は会見で、インドネシアでのEV、HV、PHVを合わせた23年の電動車販売台数は約3万8,000台で、前年から大幅に伸長し、シェアは52.8%だったと説明。HVを中心に実績をアピールした。

大出浩之マーケティングディレクターは、「現在、さまざまなインフラの制約を考慮すると、HVモデルが現在の市場では最も受け入れられやすい」との考えを述べ、燃費のほか、再販価格が比較的に高い点も評価されていると指摘した。今後もHVを軸に、さまざまな電動車でラインアップを拡充していく考えを示した。

トヨタが展示したFCV「MIRAI(ミライ)」=15日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

■EV支援策の細則、まもなく完成へ

インドネシアでは、現地生産を条件にEVの完成車輸入で優遇を付与することを決めた、EVプログラムの促進に関する大統領令『19年第55号』の改正令『23年第79号』が23年12月に公布され、同月下旬には細則となる投資相令『23年第6号』が公布された。IIMSの開幕式に出席したアイルランガ調整相(経済担当)は、さらに詳細を規定する財務相令も今月中に完成するとの見方を示した。

日系各社が力を入れるHVについて、アイルランガ氏は「現時点はEVより販売台数が多く、EVへの段階的な移行に向けた選択肢となる」とその必要性を指摘した上で、優遇の付与については「検討する」と述べた。

一方、IIMSの開幕式に出席したジョコ・ウィドド大統領は「インドネシアの自動車産業の将来はEVにある」と明言。豊富なバッテリー原料を活用し、各社のEV現地生産を後押しすることで競争力を高めると述べた。

IIMSは中央ジャカルタ・クマヨランの国際展示場ジャカルタ・インターナショナル・エキスポ(JIエキスポ)で、25日まで開催される。入場料は平日が5万ルピア、週末が8万5,000ルピア。

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