いい面を二つ

 法隆寺宮大工の棟梁(とうりょう)だった西岡常一(つねかず)さんは対談で「切る」とは何かを問われ、こう答えた。「いい面を二つ取ることです」。切り取られた側も残った側も、きれいに平らに切れば、おのずといい面になる。「切る」とは美しい命を二つ作ることだ、と▲棟梁の「切る」の一語を思い浮かべる。認知症などで、さまざまな手続きや契約をするのが自分だけでは難しいという人を手伝う「成年後見制度」を見直す議論が、法制審議会で始まるという▲手伝いを必要とする人がいて、それを案じる福祉関係者、遠くに住む親族がいる。その両方を「いい面」にするのが後見人の役どころだろう▲多くは務めを果たしているはずだが、中には「不適切な行い」が疑われる場合もある。認知症の人の口座にあるお金の使い道が「不透明だ」と親族が言い、後見人の弁護士は「その人の生活用品を買った」と否定する。結局、財産を管理する後見人の言い分が通る。そんなトラブルが挙げられている▲交代させるのが難しく、なり手不足も重なって、後見制度の問題は根が深い。認知症の人は来年、700万人前後にもなるという推計があり、見直しは差し迫った宿題だろう▲適正で利用しやすい制度、なり手を増やす制度にどう変えるか。きれいな面を二つ作る準備が急がれる。(徹)

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