いじめ被害者を守りたくても… 重大事態後の学校対応 加害者処遇に「限界」 佐世保の校長の苦悩

どうすれば被害者を守れるか―。学校現場の苦悩は深い。(写真はイメージ、本文とは関係ありません)

 長崎県佐世保市では2022年度、市立小学校と中学校で計2件のいじめの「重大事態」が認定された。加害児童・生徒に対しては、出席停止や別室登校といった対策が法令には明記されているが、学校現場ではどのように適用されているのか。「重大事態」が発生した市立中学校の校長が現在に至るまでの経緯を踏まえ実情を明かした。

◆「これしかなかった」
 同校では22年11月中旬、1、2年生(当時)の複数の生徒が1年生(同)の男子生徒にけがを負わせた。市教委は同月、いじめ防止対策推進法(いじめ防止法)に基づく「重大事態」に認定し、県警は23年夏、男子生徒にけがを負わせた疑いで生徒5人を書類送検。長崎地検は同年末にこのうち4人を長崎家裁佐世保支部に送致した。
 被害生徒は事件後、不登校の状態が続いたが、新学年になり登校を再開。いじめ対策には加害者に教室以外の場所で学習をしてもらう別室登校もあるが、「加害生徒が学校にいると(被害生徒は)登校しづらいだろう」との判断から同校は再開時期に合わせ約2週間、加害生徒らをリモート学習にして「登校を控えさせる」措置を実施した。この間、家庭訪問をほぼ毎日行ったという。
 ただしこの措置では、対面での学習や人間教育といった義務教育の目的を達成するのは難しい。多忙を極める教職員にも限界がある。約2週間となった背景にはこんな事情があった。
 措置の終了後は、校内で被害者と加害者とが遭遇する機会をなくす対策を続けている。校内に導線を設け、使用するトイレも分けるなど日常生活から学校行事まで、対策はありとあらゆる場面に及んでいる。「(取れる措置は)これが限界。これしかなかった」。校長はこう絞り出した。

◆出席停止の「ハードル」
 だが、出席停止は適用しなかった。学校教育法、いじめ防止法では加害児童・生徒に対し、教育委員会が出席停止を命じることを可能にしている(表参照)。他の児童、生徒の義務教育を受ける権利を保障するための制度で、具体的には「傷害」や「心身の苦痛を与える行為」などが例示されている。
 では、いじめがやんだ後も加害者が同じ学校にいることで被害者が「心身の苦痛を受ける」場合は適用の範囲なのか。文部科学省の見解は「個々の事例に即し、具体的かつ客観的に行わねばならない」といった趣旨にとどまった。
 一方、校長と市教委は「そういう解釈は可能」との見方を示す。それでも適用できなかった主な要因として校長は「(加害生徒の)行為が完全に特定できていなかった」と明かす。
 今回のいじめでは、直接けがを負わせたとされる生徒は特定したものの、他に何人の生徒が「具体的にどう関与したか」まで教育機関は完全に特定できていない。この点が出席停止をする上でのハードルになった-。校長はそう語る。出席停止などの措置を巡り、校長は「(いつまで実施するべきなのか)出口が設けられていない」と問題提起する。

◆学校だけでは…
 加害者への対応についても、更生と再発防止は欠かせないが、出席停止にした上で、学校だけで担うには「(現状では)時間も人手も足りていない」という。校長の目には、現行の法令や仕組みは「いじめの実態に即していない」と映る。また、出席停止にした場合を巡り「反省を促すなどの対処を家庭側がどれだけ担えるだろうか…」。こんな本音を漏らす教育関係者もいる。
 いじめが発生し、被害者が心身に傷を負ったと認知される。なのに対策が十分に取れないケースもある。「被害者にとって理不尽だ」。校長はこうため息をついた。

いじめなどへの主な対応

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