世帯年収1,250万円、40代・子のいない地方公務員夫婦「一生賃貸で、最後は老人ホームに入りたい」→昭和父「家を買ってこそ一人前だ」…“過疎地域で住宅購入”に待ち受ける悲惨な未来【FPが警告】

(※画像はイメージです/PIXTA)

少子高齢化が進む日本。特に地方において人口減少は顕著に現れています。そのようななか、過疎化が進む地域で住宅ローンを組み、家を購入することにはどのようなリスクがあるのでしょうか? 本記事ではAさん夫婦の事例とともに、地方での住宅購入に潜在するリスクについて長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。

2050年には人口が「半分」に…地方で住宅ローンを組んでも大丈夫?

いまから26年後、2050年に秋田県の人口は42%減少の予測。そんなニュースを耳にしたことはあるでしょうか。

「国立社会保障・人口問題研究所」が5年ごとに人口の将来推計をまとめています。最新のものでは2020年の国勢調査の結果をもとにした『日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)』を公表しました。それによると、日本の人口は特に地方都市において激減するという予測がなされています。

地方都市の人口減少は、多くの人が漠然と想像できることかもしれません。しかし、実際に具体的な数字を見てみると、その深刻さがわかります。

最も人口減少が予想されているのは東北地方です。特に秋田県では2050年に現在の人口から42%減少(約40万人減少)、青森県は39%減少(約48万人減少)と耳を疑うような数字です。

さらに悲惨なのは15歳~64歳のいわゆる「生産年齢人口」の減少の大きさです。秋田県では52.3%減少し、青森県では51.7%減少するとされています。つまり働き手が半減するということです。いまの職場の人数が半分以下になるとしたらどうでしょうか。AIなどの活用で労働人口が減少しても対応できる職種もありますが、医療・福祉・農業漁業・小売りなどのエッセンシャルワーカーは人手不足に苦しむことになります。

一方で東京都はどうでしょうか。東京都では人口は増え続ける予測です。2050年においても人口は2.5%増加。ただし生産年齢人口は6.3%減少し、若干ですが65歳以上の高齢者の割合が上がります。現状を維持できるのは東京都だけという結論です。

人口減の社会でも首都圏への人口の集中は進み、地方は壊滅的な打撃を受けるという印象を持ちます。たった26年後のこのような未来で、私たちの家計はどうなっていくでしょうか。特に、この時代に持ち家を買っても問題ないのでしょうか。

住宅ローンは35年返済が一般的です。35年後の社会でも毎月住宅ローンが返済できると信じられるでしょうか。人口減が著しい秋田県や青森県などでは40年返済の住宅ローンも多く利用されています。完済時期は2050年を大きく超えることになります。

社会構造が大変化することは必至で、そのなかで住宅ローンを返済するだけの収入を維持し、持ち家という資産を子供に引きついだり売却したりすることは可能なのでしょうか。

実際のところ、地方によっては暗い将来が待っているかもしれません。ここでは、人口減を考慮しながら地方で住宅を検討した事例を紹介していきます。

世帯年収1,250万円の東北地方在住・40代公務員夫婦、住宅購入を検討

<事例>

夫A 42歳 地方公務員 年収600万円
妻B 43歳 地方公務員 年収650万円
子供なし

預貯金 2,200万円
資産運用の経験なし

AさんとBさんは県立高校に教諭として勤務する夫婦です。世帯年収は1,250万円です。出身も在住も、夫婦ともに東北地方です。

夫婦はこれまで持ち家にはまったく興味がありませんでした。現在住んでいるのは戸建ての賃貸物件です。二階建てで延床面積35坪、築20年で駐車場は2台分ついています。家賃は月11万円。住宅手当として2万8,000円の支給を受けているため、実質の家賃は8万2,000円です。ここにすでに10年住んでいます。

駅からは遠いものの日常の移動手段は自動車であるため、特に不便は感じていません。スーパーと病院は歩いて行ける距離にあり、立地は非常に快適です。子供のいない夫婦にこの家は広く、夫Aさんも妻Bさんも自分の書斎を持っているほど。

大家は賃貸経営をする40代の男性で、気難しいことはいわず丁寧な対応をしてくれるため、こちらも文句なしです。現在の住まいにまったく不満がありませんでした。

持ち家を買う年齢的なリミット

しかし、夫Aさんの父親(70歳)が最近、「持ち家を買うなら年齢的にそろそろタイムリミットだぞ」と言うようになりました。

父親いわく、いくら公務員でも40歳後半になったら借りられるローンは少なくなる、ということです。「それに、仕事を辞めたら、この田舎では高齢者に家を貸してくれる大家はいない」と力説します。終の棲家をそろそろ用意してはどうかということでした。

そういわれても、持ち家に興味のない夫婦。そこで、買うべきかやめておくべきかの判断の参考になればとFP事務所に相談したのです。

キャッシュフローにはまったく問題ないが…

Aさん夫婦が現在住む地域に土地を買い、現在の賃貸と同じ35坪程度の注文住宅を建てるとすると、資金計画は一般的にいくらになるかを計算しました。

まず土地は65坪で1,800万円程度が相場です。そして延床35坪の建物として3,500万円。外構費や火災保険などの諸費用を500万円とすると、5,800万円~6,000万円ということになりそうです。

「高いなー」と驚くAさん夫婦。FPは言います「もちろん、建物をローコスト住宅にするともっと安くなりますし、土地も郊外にすれば1,000万円を切る物件もあるでしょう。それでも35坪の建物であれば4,000万円弱というところです」。

それでも高いと驚く夫婦。「2,000万円くらいで買えるのかと思っていました」と妻Bさん。仮に6,000万円で購入したとして、一年後の43歳から住宅ローンを払っていけるものでしょうか。

FPが計算すると、世帯年収の高さと退職金の潤沢さがあるためキャッシュフローはまったく問題がありません。現在の預貯金2,200万円から自己資金として1,000万円入れることでより楽になります。子供がいないこともあって住宅ローンを返済しながらも老後資金はかなり潤沢です。

「もし持ち家に興味がないと思うのであれば、無理に買わず、一生賃貸住まいでもいいかもしれません。一定の年齢になったらお2人で有料老人ホームに入居してもいいでしょう」FPはそう提案しますが、夫Aさんは答えます。

「僕もそうしたいと思っています。ただ、父親がどうしても家を買えと言うのです。古い価値観の人なので、家を買って一人前だと言うんですよ。孫もいないし、せめて家を建てたところを見せて安心させてあげたいという気持ちが強くなっています」

家を買って一人前という価値観を持つ人も多いのは事実ですが、現代社会では危険な場合があります。

夫Aさんが思いついたこと

「実のところ持ち家に興味はないし、安く済ませられるものならそうしたいです。車もあるし土地は郊外にして安くするのはどうでしょうか」と夫Aさん。

たしかに地方都市では探せば坪単価1万円などという安い土地が見つかります。自治体が移住者に手当を給付するケースもあり、土地代を実質ゼロ円にすることも可能です。その土地にローコスト住宅を建て、さらに現状広すぎるとのことなので、建物・土地をコンパクトにしたら、資金計画はかなり抑えられるのは事実です。

しかし、FPはこう答えます。

「2050年にはこの街の人口は40%近く減少する予測になっています。そうなると郊外の住宅地は、言葉は悪いですがゴーストタウンと化す可能性もあります。40年後、ご夫婦が80代になったころには日本がどうなっているか想像つきません。ゴーストタウンとなった街の住宅を手放したくても買い手はいないかもしれません」

「そうだよなあ」と夫Aさん。

「これは勝手な想像ですが、技能系の外国人労働者が今後増えるとしたら、安い住宅地を求めるはずです。周囲の空き家に外国人住民が住み始め、高齢者になってから異なる価値観を持つ住民との意思疎通に苦労することも考えられます。外国人労働者が増えるのは日本経済にとってプラスがありますが、生活の現場では不安を感じる方も多いのです」

「親孝行であれば、住宅以外のことでしてもいいのかもしれませんよ」とFPに諭されてしまいました。どうしても持ち家が欲しいという強い動機がないのであれば、わざわざリスクを背負う必要はないという意見でした。

いくら高所得世帯でも、地方都市では住宅購入のリスクは必ずあるのです。リスクがあっても持ち家を持つ動機があるかどうかが重要です。結局のところAさん夫婦は、住宅購入はしないという結論に至りました。定年退職時にもう一度考えるということです。

地方都市での住宅購入はより慎重に…

これから地方都市で住宅を購入しようとする人は、人口減少のことを考慮したほうがいいかもしれません。人口が減少していながら、現在、建物価格は高騰しています。地価も上昇しています。住宅価格が高騰していながら人口減少を続けているという、コロナ禍の前には想像もしていなかった事態なのです。

2050年になって、「購入価格は高かったけれど、売ろうにも買い手はいない」という最悪の状態になることも考えられます。住み続けたいが周囲が限界ニュータウンと化した場合、老後破綻が現実のものとなってしまいます。

専門家を交えて、慎重にお住いの地域の将来を予測しながら住宅購入をしてください。

長岡 理知

長岡FP事務所

代表

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