【ルッキズム】“いろんな人がいる”という事実を1人でも多くの人に知ってもらうのが大切

「ルッキズム」(外見至上主義)の時代、見た目に特徴がある人たちがぶつかる困りごとを取り除きたいという外川さん(写真右)。左は頭の毛がすべて抜ける「全頭型脱毛症」の大学生こうみさん(19歳)。こうみさんは大学に入学してから「見た目問題」の当事者として、顔出しで発信を始めました。

◆プロフィール
東京都墨田区生まれ。大学卒業後、NPO団体を経て2006年、実弟とともにマイフェイス・マイスタイルを立ち上げる。見た目に特徴をもつ人たちがぶつかる困難を「見た目問題」と名づけ、交流会や講演、YouTube配信などを通して「人生は、見た目ではなく、人と人のつながりで決まる」と伝え続けている。最近、小説『ツバキ文具店』(小川糸 著)を読んで“手紙愛”が再燃。友人や知人に手紙をしたためるのが今の楽しみ。

「ルッキズム」(外見至上主義)の時代に、見た目に特徴がある人たちがぶつかる困りごとを取り除きたい

顔にやけどの跡がある人と付き合って、「見た目問題」に気づかされた

外川さんが「見た目問題」に取り組むようになったのは、20代のころ、顔にやけどの跡がある男性との交際がきっかけでした。「彼と街を歩くたびに、人の視線を浴びるようになりました」。すれ違いざまにチラッと見る、ジロジロ見る、驚いて目をそらす……。「人によって反応はさまざまでしたが、当事者ではない私でさえ、“見られる”ストレスで心がじわじわと蝕まれる感覚がありました」。
やがて見た目に特徴をもつ人たちのサポートに携わるようになり、2006年にNPO法人マイフェイス・マイスタイルを設立。「今は外見が過剰に重視されるルッキズムの時代。その風潮が見た目問題を抱える人たちを、より生きづらくしています。理解の第一歩は知ること。だから、“いろんな人がいる”という事実を1人でも多くの人に知ってもらうのが大切です。『知る』が広がることで、いろんな人が生きやすくなり、誰もが自分らしい顔で自分らしい生き方を楽しめる社会につながると信じています」。

「見た目問題」って?

顔や体に生まれつきアザがあったり、事故や病気による傷、やけど、脱毛など「見た目(外見)」に特徴がある人たちが「見た目」を理由とする差別や偏見のせいでぶつかってしまう問題のこと。「見た目に問題がある」という意味ではなく、「見た目を理由とする差別や偏見などによって生じる問題」を指す。

たとえば……

単純性血管腫・円形脱毛症・先天性無毛症・太田母斑・口唇口蓋裂・やけど・ケロイド・アルビノ・顔面神経麻痺・白斑・斜視・眼瞼下垂・小耳(しょうじ)症・先端巨大症(アクロメガリー)・レックリングハウゼン病・海綿状血管腫・苺状血管腫・リンパ管腫・乾癬(かんせん)・魚鱗癬(ぎょりんせん)・脂肪腫・バセドウ病・トリーチャーコリンズ症候群・ロンバーグ病(顔面片側萎縮症)・アトピー性皮膚炎・欠損・ケガの傷跡・手術の傷跡 などがある人

「当事者」が受けてきた差別の例

■(就職のための面談のときに)顔を見ただけで「話にならない」と言われ、履歴書を投げ返された
■ 職場で「あんな見た目の人間を外回りに出せるか」と言われた
■学校で先生に進路を相談したら、「あなたのような見た目の女性は就職できない」と言われた
■ジロジロ見られる/指をさされる/暴言を浴びせられる
■見た目についてのいじり、いじめ(学校や職場、テレビ番組などで)
(マイフェイス・マイスタイル調べ)

日本はルッキズム社会。でも「見た目いじり」はもうアウト、という風潮も出てきた

「日本では見た目が人生を左右するかのような情報がネットやテレビ、SNSなど至るところにあふれ、ルッキズム大国のよう」と外川さん。「でも最近は、お笑い芸人が外見を茶化すようなネタをやらなくなってきたり、女性タレントの体形をからかうような演出に批判の声が集まるなど、状況が変わってきたことも肌で感じています」。

「たとえ髪がなくたって、閉じこもらなくていい!」と伝えたい

こうみさんは中学校からずっと女子校生活。「いつか恋愛をしたら脱毛症とカミングアウトしなきゃいけない。それがすごく怖いです。でも私と同じ脱毛症で、症状に理解のある男性とカップルで発信している方のSNSを見て、私も踏み出していいのかなと勇気をもらいました。私も悩みつつも学生生活を積極的に楽しんできました。自分の体験を発信することで、これから進学する子たちに怖がらずに楽しんで!と伝えたいです」。

小学校のマラソン大会で独走するこうみさん。当時はスキンヘッドで生活していたが、中学校に進学してからニット帽をかぶるように。「髪がなくても人には負けない!という気持ちがいつもあって、スポーツも勉強も頑張ってきました」

いろいろな見た目の人がいる事実をまずは知ってほしい

「見た目に特徴がある人を見て驚いてしまうことがあるかもしれません。でもそういう人と接した経験があればあるほど、気にならなくなります。だからマイフェイス・マイスタイルでは当事者と『見た目問題』を語るYouTube番組やSNS発信、講演、写真展などあの手この手で当事者との接点をつくっています。“いかに多くの人たちが目にする機会を増やすか”が勝負。そんな私の考えに賛同し、顔を出して発信してくれる当事者が増えています」。

メンズコスメブランド「BOTCHAN(ボッチャン)」とコラボし、見た目に特徴がある5人のありのままの姿をとらえた写真展「You do you. あなたらしさはあなたのもの。」を23年10月に開催。東京・下北沢の会場は連日、多くの人でにぎわった
写真展のキービジュアル。BOTCHANのアートディレクター飯高健人さんのディレクションにより、当事者のモデル5名を撮影し、カラフルな色彩とグラフィックを使用した作品に仕上げている。(上段右)全身の体毛が抜ける「汎発性脱毛症」のMarikoさん(上段左)生まれつき肌や体毛が白く、目の色もうすい「アルビノ」の粕谷幸司さん(下段右)生まれつきの赤アザ「単純性血管腫」の石山直幸さん(下段中央)顔のほほ骨やあご骨がうまく形成されない「トリーチャーコリンズ症候群」のMasakiさん(下段左)「アルビノ」の神原由佳さん

<教えてくれた人>
NPO法人「マイフェイス・マイスタイル」代表 外川(とがわ)浩子さん
東京都墨田区生まれ。大学卒業後、NPO団体を経て2006年、実弟とともにマイフェイス・マイスタイルを立ち上げる。見た目に特徴をもつ人たちがぶつかる困難を「見た目問題」と名づけ、交流会や講演、YouTube配信などを通して「人生は、見た目ではなく、人と人のつながりで決まる」と伝え続けている。最近、小説『ツバキ文具店』(小川糸 著)を読んで“手紙愛”が再燃。友人や知人に手紙をしたためるのが今の楽しみ。

参照:『サンキュ!』2024年3月号「あしたを変えるひと」より。掲載している情報は2024年1月現在のものです。撮影/久富健太郎 取材・文/神坐陽子 編集/サンキュ!編集部

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