アングル:米無人タクシー放火事件に見る、現行の自動運転技術の限界

Hyunjoo Jin Abhirup Roy

[サンフランシスコ 13日 ロイター] - 米サンフランシスコ市で長年営業しているタクシー運転手なら、春節(旧正月)初日に中華街のど真ん中には車を乗り入れなかったかもしれない。

しかしアルファベット傘下で自動運転技術を開発するウェイモの無人タクシーは10日夜、道の両側が全て封鎖され、群衆でごった返し、花火まで打ち上げられていた場所に突っ込んでしまった。その数分後、一部の暴徒がこの無人タクシーに襲い掛かり、放火した。

サンフランシスコ市議で、自動運転車に対する規制強化を求める監督委員会のアーロン・ペスキン委員長は「通常のタクシー運転手の大半は、春節期間に中華街の運転は避けるべきだと承知している。コンピューターはそれを理解していない」と話す。

確かに今回の事件は、無人タクシーの判断能力に限界があることを浮き彫りにした。同時に、安全性への懸念や仕事を奪われることへの警戒感、さらには人工知能(AI)技術全般に対する不安といったさまざまな理由から、無人タクシーに敵意が向けられている事情も明らかになったと当局者や学会関係者らはみている。

ただサンフランシスコは無人タクシーがごく日常の存在になりつつあり、むしろ人間の運転手よりも安全だと支持する意見もある。

ロンドン・ブリード市長は、中華街で起きた事件を「危険で破壊的な野蛮主義の行為」と非難しつつ、自動運転車の開発においてサンフランシスコが試験場として重要な役割を担っていると評価。「自動運転車のようにわくわくさせてくれて、世界を変えようとしている新登場の技術にとって、その本拠こそがサンフランシスコだ」と胸を張った。

ウェイモは、カメラやセンサーを搭載した無人タクシーがなぜ春節の祝賀ムードで混雑した中華街に入っていったのかという質問に回答していない。

南カリフォルニア大学で自動運転車に関する法令を専門に扱うブライアント・ウォーカースミス教授は、今回の事件で自動運転車が歩行者で混み合った場所を検知し、そこを迂回できるのか、あるいはそうすべきかという当然の疑問が浮上してきているとの見方を示した。

同教授は「運行システムにこのような事態をどう織り込んでいるのかについてウェイモから説明があれば、興味を持つだろう」と話す。

<社会問題か単なる犯罪か>

サンフランシスコ警察は、ウェイモの無人タクシー襲撃事件の捜査を進めているが、今のところ襲撃の動機ははっきりしていない。

何人かの専門家は、自動運転車や他のAI技術に対する怒りや恨みが強まっている証拠ではないかとみている。

ジョージ・メーソン大学自動化ロボットセンター所長で、以前には米運輸規制当局のアドバイザーを務めていたミッシー・カミングス氏は、望んでおらず、生活も改善してくれない技術への人々の怒りが沸点に達しつつあると指摘した。

一方ペスキン議員は、今回の件は「ハイテク技術への反感」ではなく、不良グループによる単なるいたずら目的の犯罪行為かもしれないと述べた。

ウェイモの無人タクシーが襲撃される直前、道路に車の往来はほとんどなく、歩行者がなだれ込んで花火に興じていた。何台かの車はこうした群衆を目にすると道を変えたり、引き返したりした。

ごく少数の車は時折、中華街の中心に入っていき、群衆もその通過を許していたが、ウェイモの無人タクシーが後続の数台を止める形で群衆に接近すると襲撃された、と目撃者の一人は証言している。

目撃者によると、その後すぐに群衆の秩序がなくなり、白いパーカーを着た何者かが車の上に飛び乗り、フロントガラスを破壊。さらに落書きされ、花火も打ち込まれた。

各自治体に自動運転車の規制強化権限を与える法案を提案しているカリフォルニア州議会上院のデーブ・コーテシー議員は、花火が舞い、混雑していた場所に乗り入れたという事実から、自動運転技術の不十分さが良くわかると指摘。「自動運転技術は業界がわれわれに信じさせたいと考えるほど、洗練されたものでないことが露呈しつつある」と明言した。

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