社説:核ごみの処分地 行き詰まりは明らかだ

 生みだす廃棄物の後始末に見通しが立たないまま、原発稼働を推し進める矛盾が深まっている。

 原発の高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を地中深くに埋める最終処分地の選定に向け、国は北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で2020年に始めた全国初の「文献調査」の報告書案をまとめた。

 地質図や論文などを調べた結果、3段階のうち第2段階に当たる「概要調査」に進むことが可能との判断を示している。

 ボーリングなどを行う概要調査に入るには地元町村と道の同意が必要だが、鈴木直道知事は、核のごみを「受け入れ難い」とする条例を根拠に反対する考えを示す。

 寿都町長も、新たに文献調査に応募する自治体が出るまで対応を明言しないという。2町村のほかに手を挙げる動きはなく、次の段階に進む見通しが全く立たないのが実情といえよう。

 文献調査を受け入れるだけで最大20億円を交付すると誘導し、過疎に悩む小さな自治体に決断を押しつける国の手法が、無理筋なのが浮き彫りになった。

 国は地層処分で地下300メートルより深い岩盤に埋め、数万年かけて放射能を低減させるとする。国基準では、活断層や火山の影響が及ぶ場所を避けるとしている。

 報告書案では、神恵内村は火山の山頂から15キロ圏に村の大部分が入るうえ、適地との境界が明確でないとした。寿都町では断層や鉱山跡を今後の調査の注意点として挙げた。

 候補地を募る国が、京都や滋賀など全国各地で開いた説明会でも疑問の声が相次いでいる。安全面での適地よりも、手を挙げた候補地の調査進展を優先させる姿勢では、国民の理解など広がりようもない。

 昨秋には地学の専門家ら有志が「地殻変動が活発な日本では地層処分は不可能」との声明を出した。厳しく、重い指摘だ。

 ただ、現実に原発稼働で増え続ける廃棄物を抱え、処分は避けて通れない。

 最終処分地を決めた北欧では、地域の協力を得るために数十年をかけた。国は先に適地を絞り、地元理解に向けて主体的な取り組みを進めるのが手順ではないか。

 最終処分まで確立していない以上、原発は未完のシステムと言わざるを得ない。

 岸田文雄首相は、老朽化した原発の運転延長や新増設に突き進んでいるが、その行き詰まりこそ直視すべきだ。

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