「血の味がするほど戦う」デュッセルドルフの“赤きサムライ”田中碧の現在地と課題【現地発】

ブンデスリーガ2部のフォルトゥナ・デュッセルドルフに所属するMF田中碧は、今シーズンの国内リーグ20試合に出場。4得点・2アシストをマークしている(21節終了現在)。現在7位とチーム状態はいまひとつだが、田中自身は専門誌『キッカー』から「及第点以上」の評価を受けるケースが少なくない。

もっとも、順調なスタートを切ったわけではなかった。1~3節にフル出場を果たすも、4節のエルフェルスベルク戦ではベンチ外。その後の5~7節はベンチスタートとなり、8節のハンブルガーSV戦でスタメンに返り咲いた。しかし、9節オスナブリュック戦では再びベンチスタートを余儀なくされ、ピッチに送り込まれたのは1点リードの70分だった。

そんな田中に対し、地元紙は容赦がなかった。

「タナカはフォルトゥナでプレーする気があるのか?」

「タナカは大きな問題になっている」

ファンやメディアが“タナカ”にイメージ(期待)していることと、田中本人がイメージしていること(考え)がずれている。互いに頭では理解できても、どこかで微妙な違いを受け入れることができずにいたのかもしれない。

当時、デュッセルドルフのダニエル・ティウネ監督はこう語っていた。

「彼にとっては簡単な状況ではないだろう。彼自身、まだ2部リーグを完全に理解するために何かが少し欠けているかもしれない、と話していたことがある」

【PHOTO】まさにスタジアムの華! ワールドクラスたちの妻、恋人、パートナーら“WAGs”を一挙紹介!
そんな嫌な流れが変わった。スタメン出場した田中が10節のカイザースラウテルンで2ゴール、11節のブラウンシュバイク戦で1ゴールと躍動したのだ。この活躍を受け、地元紙は「タナカがついにフォルトゥナの一員になった」と手のひらを返し、ティウネ監督は「アオは血の味がするほど戦っていたよ。これからも“赤きサムライ”の姿を見せてほしい。我々全員が願っていることだ」と相好を崩した。

チームメイトも賛辞を惜しまない。オランダ人DFのヨルディ・デ・ヴァイスは言う。

「僕も国外でプレーしたことがあるけど、うまくいかないときは本当につらいんだ。彼がそこから抜け出し、どれだけいい選手で、僕らにとって大事な選手かを示してくれてる。リスペクトに値することだよ」

高く評価された理由は、得点を記録したからだけではない。全力で戦う。ミスをしても取り返そうとすぐに走り出す。苦しい時間帯にチームを助けるプレーを見せる。チームのミスが目立てば、ボールをしっかりとキープして味方が落ち着くための余裕を作り出す。そうした役割をこなしていたからこそ、田中は大きな信頼を勝ち取れたのだ。

2部では1部以上にデュエルが重要視されやすい。そして、ファンは「クラブのためにファイトしてくれている」選手、プレーを求めている。

そうした根っこの部分における評価も高まっているからだろう。1-1の引き分けに終わった21節のエルフェルスベルク戦では、とくに終盤「なぜ、タナカにパスを出さない⁉」というファンのリアクションが多かった。

「チームからしたら僕が点を取ろうが、取らなかろうが、どっちでもいい。勝てばいい」

田中が語るように、たとえばFWがゴールを量産してくれるに越したことはない。だが、デュッセルドルフには生粋の頼れる点取り屋がいない。その戦力事情を踏まえると、田中のゴールに直結する働きを求めるファンが多くなるのは当然だろう。

エルフェルスベルク戦を振り返れば、ふたつのビッグチャンスがあった。ひとつ目は右サイドからの折り返しのパスに対し、ゴール前にうまく入り込んできた田中がシュートを放つも、GKの好セーブに阻まれた場面だ。ふたつ目は終了間際に訪れた。田中がエリア外から持ち込んでシュート。しかし、GKの正面を突いてしまった。

「見直してみないとわかりませんが、(ひとつ目は)おそらく相手に当たっていました。でも、ああいうのは決め切らないと」

ゴールは生まれなかったものの、シュートまでの判断と動きには“伏線”があった。相手の守り方をよく観察し、次に似たような状況がやってきたらと準備していたのだ。田中が言う。

「(ひとつ目のチャンスの)その前に1本マイナスのパスがきたシーンがあって。あ、マイナス(のコース)が空いているんだと。そういう意味では狙い通りでした。あとはしっかり決めていれば、前半のうちに2-0となって楽だった。最後(のシーン)に関してもシュートまでは理想的な形だったので、決めるか決めないかですね。練習するしかないと思います」

シンプルなつなぎのプレーに加え、相手を1枚剥がすアクション、攻守両面で起点となるポジショニングと関わり、そして、田中自身が「練習するしかない」と語るゴール前での決定力が上がれば、“赤きサムライ”の評価がさらに高まるのは間違いないだろう。

取材・文●中野吉之伴

© 日本スポーツ企画出版社