【インタビュー】青森山田高正木昌宣監督に聞くJ2町田ゼルビア黒田剛監督から学んだマネジメント、受けた刺激

昨季J2で連勝街道を突き進んでリーグ初優勝とJ1初昇格を手にしたFC町田ゼルビア。チームを躍進へと導いた黒田剛監督は青森山田高で28年間指揮を執り、高校選手権優勝3回、インターハイ優勝2回、高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグ完全制覇2回と高校サッカー界で金字塔を打ち立てた。

J1開幕前に黒田監督からバトンを託された青森山田高正木昌宣監督に、Qolyが単独インタビューを敢行。

2004年から青森山田高サッカー部コーチを始め、長きに渡って黒田監督の参謀役を務めた。昨季から監督に就任し、今季は高校選手権、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ完全制覇へと導いた名将に黒田監督のマネジメントやJ2優勝から受けた刺激などを聞いた。

(取材日2023年12月6日)

最も影響を受けたノウハウとは

――2004年から19年間青森山田で指導をされている正木監督にとって黒田剛前監督はどのような存在でしたか。

1番刺激をもらえる方ですね。

――黒田前監督の右腕としても長年指導されてきて、1番影響を受けたノウハウを教えてください。

1番影響を受けたノウハウはコミュニケーションスキルと、組織をマネジメントする力だと思います。コミュニケーション能力の高さは、いままで出会った人の中でも間違いなく1番だと思う。組織のあり方、あるべき姿、かかわり方は本当に学ばさせてもらったと思っています。いきなりああいう形にはできないですけど、教わったことは自分なりに、自分の中で考えて行動しているかなという気がしますね。

――よく選手が黒田前監督の前だと「心を読まれている」と振り返ることがあります。洞察力、人間観察の力が優れているのでしょうか。

そうですね。感じる力がすごいんです。だから人を本当によく見ているし、それが組織をマネジメントするところで生きていると思います。例えば選手もそうだし、指導者でもそうだと思うんですけど、「あれちょっと少し元気ないな」と思えばアプローチの仕方を変えるし、「あれちょっと勘違いしているな」と思えば厳しく言うだろうし。

だから見る目と感じる力と、そしてそれを伝える能力が多分(黒田)監督の1番のスキルなんじゃないかと思います。

青森山田と町田の共通点と違い

――黒田前監督のJリーグ挑戦について率直に思ったことを教えてください。

「プロで勝負したい」と思っていたので、いつか行くんだろうと思っていました。それがいつになるのか、何年後か、どういう立ち位置で行くのかなと思ったらいきなりで、しかも監督という最高の状態で行かれました。

1番最初に「おめでとうございます」と伝えました。

――2023年シーズンは町田の試合を観戦されましたか。

あります。キャンプも行きました。開幕戦、それから清水エスパルスとの試合、東京ヴェルディとの試合。現地で3回、DAZNだと20試合ぐらいは見ているんじゃないですかね。空いているときには見ていました。

J2初制覇、J1初昇格を就任1季で達成した黒田監督(中央)

――町田のサッカーを見て率直に感じたことを教えてください。

青森山田でやっていたことをさらに質の高い選手たちが実行しているので、やはりこのサッカーをやっていれば、選手のクオリティーが上がるともっとあんなふうになるんだなと。「山田だな」という印象はやっぱりありましたよね。

――高体連と違って外国籍選手の存在など変化があると思います。青森山田高と町田の共通点と明確な違いを教えてください。

共通点であれば勝利から逆算して、チームの中で誰一人妥協することなく勝利するために全員が努力し続けることが共通点であり、(青森山田との)違う部分は選手の個の能力や攻撃のバリエーションが山田のときよりもある気がします。

――具体的にバリエーションはどの部分でしょうか。

やはり何でもできるサッカーを志向していて、その中で(黒田監督指揮下の)山田はサイドからの攻撃が一つの特徴があったと思います。そのサイドの使い方というところで長いボールや崩しがあったと思います。でも相手が引いてくればボランチを中心にボールを動かしながら、攻撃を組み立てることもできる。逆にフォワードにかなりの選手がいたので、相手が前から来れば切り返す。

山田のとき以上にシンプルにゴールを目指すということもやっていました。(黒田)監督の一つ持っている特徴として、いる選手で100%できること、いる選手の能力を100%出すためにどうすればいいかを考えてやることに長けていると思います。意外と山田のとき以上にシンプルにやっている印象はありました。

教え子たちの躍動、お互いの目標

――藤原祐大選手、宇野禅斗選手、バスケス・バイロン選手と青森山田OBの選手達が町田で躍動したシーズンでした。正木監督も3人を指導されましたけど、プロの舞台で黒田さんの下でプレーしている姿はどのように映りましたか。

選手にとって難しいことが一つあって、それは指導者が選手のことを理解してくれているかどうかが1番大きいことだと思います。どのチームの監督でもそうですけど、選手のことを理解して、その選手をうまく使うことがプロの世界では当たり前だと思います。

彼ら3人のことは高校時代、藤原、宇野の二人は中学校時代から黒田監督は知っています。そういった意味で言うと、理解してくれている指導者の下で思いっきりサッカーができている。なぜならお互いがゴール地点というか、求めている地点を知っているわけですから。いままで他のチームにいたときよりも分かってくれている分、伸び伸びとプレーしている印象があったかなという気がしますね。

バスケス・バイロン(左)と黒田監督

――町田のJ2優勝、J1昇格について驚きはありましたか。

負ける姿はあまり想像していなかったです。あの負けず嫌いな性格はプロ向きだと思います(笑)。なので、多分開幕から上手く、いっていなかったとしてもブレることはないけど、柔軟にやれることを変えていたんじゃないかなという気がします。

J2優勝ですよね。監督だけの力じゃなくて町田に関わるすべての人たちの充実度や選手の質を考えたら、すべての人たちが監督の下に集まって、優勝を本気で目指していたと思います。驚きはそんなにない感じですよね(笑)。

でもお互いリーグ戦優勝は春先からずっと言っていたことだったので、逆に負けたくないという気持ちのほうが強かった。そこはまずお互い達成できて、一先ずは今年頑張ってきた結果かなと思います。

やってきたことは間違いじゃない

――指導者として見本にしている部分を教えてください。

見本ですか。コミュニケーション能力とマネジメント力ですね。見る、感じる力は本当に勉強になりましたし、自分の中でもその姿を見て自分なりに吸収してやっていたことも多々あります。そこは本当に素晴らしいと思います。

ただいま言ったようにコミュニケーション能力、見る、感じる、そして組織のマネジメントという部分は本当に勉強になっているし、自分がこれからやっていく上でも間違いなく、そこを中心に組織を運営していくのかなという気がします。

――黒田監督という身近な高校サッカー指導者が難しいプロの舞台であれだけ大旋風を巻き起こしたことは同じ高校サッカー指導者として刺激になりましたか。

プロを目指している指導者はいっぱいいると思う。それは選手だけじゃなく、指導者も将来プロ指導者になりたい、あの舞台でやりたいと言っていま一生懸命やっている指導者もたくさんいると思います。そういう人たちからすると本当にこの行動はとんでもないことだと思いますし、自分もそういう人とずっと一緒にやっていたことはやはり光栄なことです。

逆に「やっていたことが間違いじゃないんじゃないか?」という答え合わせにもなった。個人的に高校サッカーが好きなのでアレですけど、いま言ったように色々な人の道標(みちしるべ)になりつつ自分の中の答え合わせ的に間違いじゃないという自信につながりました。そこは本当にチャレンジすることもすごいし、結果を出すこともすごい。本当に有言実行した素晴らしい人だと思います。

――黒田監督は今季J1に挑戦しますけど、どのような結果を楽しみにしていますか。

どうですかね。見てみたいのは、ちょっと苦労している姿を見てみたいですけどね(笑)。うまくいきすぎているんで(笑)。

新しい一面を見たいです(笑)。ちょっと苦しい時期を乗り越えて、また新しい監督の一面を見ることを楽しみにしたいです。でもお互いずっと(青森山田に)いたので、優勝することに関してはどんなカテゴリーでも続けてほしいと思います。

【インタビュー】青森山田高正木昌宣監督が語るキャリアの目標、理想のサッカー、高校選手権とは

バトンを引き継いだ正木監督は青森山田高に二つのタイトルをもたらした。黒田イズムを継承しつつ、より攻撃的に選手たちが躍動するサッカーは常勝軍団のさらなる進化を伺わせた。プロの舞台に進んだ黒田監督、母校をより強く進化させる正木監督の活躍から目が離せない。

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