ゆとりの1週間だった…/原ゆみこのマドリッド

[写真:©Real Madrid]

「きっと選手たちもお腹が空いているだろうに」そんな風に私が同情していたのは木曜日、久々に試合のないミッドウィークを過ごしているアトレティコがメトロポリターノで練習した後、遅ればせながら、グリーズマンのクラブ最多得点記録更新記念イベントをスタジアムの講堂で開催。昨年あったシメオネ監督のクラブ最多指揮試合数更新イベント同様、招待客だけの催しだったため、ネットストリーミングで見ていたところ、1時間以上と思ったより長引いたせいで、ランチの準備が遅くなってしまった時のことでした。

いえまあ、昨年12月、故ルイス・アラゴネス監督の持つ173得点に並んだ試合ではヘタフェに追いつかれて引分け、ホーム連勝が21でストップ。更新となる174得点目を挙げたスペイン・スーパーカップ準決勝レアル・マドリー戦はサウジアラビアでの開催だった上、前半2-2の同点とするゴールでしたからね。当人も「ハーフタイムにシメオネ監督やチーメートと話したのを覚えている。Yo tenía ganas de llorar, pero estaba en medio del partido/ジョ・テニア・ガナス・デ・ジョラール、ペロ・エスタバ・エン・メデイオ・デル・パルティードー(自分は泣きたかったけど、まだ試合の途中だったから)」と言っていましたが、その後、3-3となって延長戦に入り、最後は5-3で敗退してしまうことに。

とても盛大にお祝いするどころじゃなかったんですが、その1週間後のコパ・デル・レイ準々決勝でマドリーダービー再戦となった折りには、今度はグリーズマンが延長戦に勝ち越しゴールを挙げて、最後は4-2で勝ち抜け。通算175得点として、とうとうメトロポリターノのファンの祝福を受けることができたんですが、その後も週中、週末の地獄の連戦でしたからね。クラブの公式イベントをやる機会が今週までなかったのはわかりますが、でも以降、グリーズマンは7試合もゴールしてないんですよお。

というか、さすがに3週間に8試合という超ハードスケジュールが祟ったか、ここ2試合、アトレティコは1点も取れずにコパ準決勝アスレティック戦1stレグ、リーガのセビージャ戦で連敗。となれば、選手たちをお昼ご飯前の長いイベントに付き合わせるより、さっさと家に帰して休ませるか、でなきゃ、追加でシュート練習でもやらせていた方がいいんじゃないかと思ってしまったのはきっと、私だけではない?いえ、もちろん、「バルサに行くという間違いは犯したけど、hago todo para que los aficionados estén orgullosos de su número 7/アゴ・トードー・パラ・ケ・ロス・アフィシオナードス・エステン・オルグジョーソス・デ・ス・ヌメロ・シエテ(ファンがアトレティコの背番号7の選手を誇りに思えるよう、ボクは何でもやる)」というグリーズマンの晴れ舞台を見られたのは喜ばしいことですけどね。

ただ、いくら首位のお隣さんとの勝ち点差が13に広がり、リーガ優勝の目が完全になくなったとはいえ、勝ち点2差で5位のアスレティックに追いつかれる訳にいかず。土曜の午後2時(日本時間午後10時)に迫った、28試合で不敗神話が途切れたメトロポリターノでのラス・パルマス戦には絶対、勝たないといけませんからね。更にその3日後にはCL16強対決インテル戦1stレグもあって、しかもサンチェス・ピスファンでヒザをケガしたモラタはここ数試合、当てにできませんし、そのセビージャ戦でシメオネ監督下では記録的な速攻デビューを果たしたパウリスタ(バレンシアから移籍)も腹筋を痛めてしまう始末。

ヒメネスがそろそろ戻って来られそうなのは朗報とはいえ、突然のゴール日照りをさっさと脱出しないと、逆転が必須の29日のコパ準決勝2ndレグも含めて、シーズン残りを淋しく過ごすことになりかねませんが…何はともあれ、今週の中5日間が効いて、選手たちが元気を取り戻してくれることを祈っています。

え、アトレティコはCL16強対決2週目グループだけど、先行組のマドリーは火曜にライプツィヒ戦1stレグがあったんだろうって?その通りで、彼らは土曜にサンティアゴ・ベルナベウで2位のジローナを本職CBが1人もいなかったにも関わらず、4-0と叩きのめし、リーガ35回の最多優勝クラブの貫禄を示した後、中2日で、CL最多優勝回数を15に更新すべく、決勝トーナメント初戦に挑むことに。この日は筋肉痛が治ったナチョがチュアメニとCBコンビを組み、カルハバルは2試合ぶりに右SBに戻ったんですが、それが実はレッドブル・アレナでは開始2分から、ドッキリがあったんですよ。

そう、CKからのボールをGKルーニンがパンチングしたボールをエリア外から、シュラーガーがエリア内に上げ、シェシュコのヘッドがゴールに入ったからですが、大丈夫。その時、「Un jugador estaba conmigo sin disputar el balón y me molestaba/ウン・フガドール・エスタバ・コンミーゴ・シン・ディスプタール・エル・バロン・イ・メ・モレスタバ(敵選手がボールを争うことなく、ボクといて、邪魔された)」(ルーニン)という理由で、彼の後ろにいたヘンリクスがファールを取られたか、その位置が「Creo que era fuera de juego bastante claro/クレオ・ケ・エラ・フエラ・デ・フエゴ・バスタンテ・クラート(明白なオフサイドだったと思う)」(アンチェロッティ監督)だったからなのか、とにかくスコアには挙がらなかったから、助かったの何のって。

うーん、ライプツィヒサイドは「オフサイドでもファールでもない。合法なゴールだ」(ローズ監督)と主張していたため、ラッキーだったのは否めないんですけどね。その後も相手の猛攻は続き、シェシュコが何度も撃ってきたものの、何とか0-0のまま、ハーフタイムを迎えることに。逆に後半はマドリーがいきなり牙を剥いて、3分、ジローナ戦で足首をネンザしたベリンガムの代理として、スタメン入りしたブライムが敵エリア付近でボールを奪うと、3人をかわして、エリア内右からシュート。当人によると、「Vi a Vini y se la quería dar, dudé, pero acabo disparando/ビ・ア・ビニ・イ・セ・ラ・ケリア・ダール、ドゥデ、ペロ・アカボ・ディスパランドー(ビニシウスが見えたから、パスしようかと迷ったけど、結局、撃っちゃった)」そうですが、それがGKグラーチの手の届かないゴール左隅にすっぽり収まってしまったとなれば、結果オーライですって。

その後、追加点が入ることはなく、いえ、26分にはビニシウスのシュートがゴールポストに当たる惜しいチャンスはあったんですけどね。そのまま0-1で終わったため、9回もの枠内シュートを止め、中にはparadon(パラドン/スーパーセーブ)もあったルーニンが絶賛されることに。まあ、大きなアドバンテージを取ったとは言えませんが、3月6日の2ndレグはサンティアゴ・ベルナベウ開催ですからね。とりわけ、CLではお家芸の根性のremontada(レモンターダ/逆転劇)も発動しやすいため、たとえ、うっかり同点にされようが、最悪、一時は逆転されたとしても、マドリーが勝ち抜ける確率は高いんじゃないでしょうか。

そうそう、その試合、39分には殊勲のブライムがふくらはぎの痛みで続行不可能となり、交代して心配されたんですが、どうやらただのこむら返りだったようで、早くも木曜のバルデベバス(バラハス空港の近く)では普通に練習。この日曜午後2時からの兄弟分ダービー、エスタディオ・バジェカスでのラージョ戦の出場に問題はなさそうですが、実はマドリーがCLをプレーしている間、その弟分には激震が走っていたんですよ。というのも先週末も後半ロスタイムに勝ち越しゴールを奪われ、3-2でマジョルカに敗戦。ここ15試合でたったの1勝というスランプに陥っていた彼らなんですが、とうとうフランシスコ監督が解任されてしまったから。

それはまあ、今は降格圏まで勝ち点7差ある14位とはいえ、このままだと遅かれ早かれ、マズいことになるという判断ですから、仕方ないんですが、翌日には早速、後任として、イニゴ・ペレス監督をプレゼン。昨季、イラオラ監督の下で第2監督を務めていた36才で、いえ、若いのはイラオラ監督もラージョに来た当時は37才でしたから、別にいいんですけどね。気になるのは2022年にオサスナで現役を引退した後、指導者経験がその第2監督の1シーズンしかないこと。

ええ、イラオラ監督はAEKラナルカ(キプロス)やミランデス(リーガ2部)で修行してからの着任でしたからね。イニゴ・ペレス監督には、今季もボーンマスの指揮官に就任したイラオラ監督の下で第2監督を務める予定だったところ、UEFAレベルのコーチライセンスを持っていないため、イギリスのビザが下りず。それでスペインに戻って来たという経緯もありますし、いくら選手たちのほとんどを知っているとはいえ、いきなり1部チームを率いるのは難しいんじゃないかと、素人目には思ってしまうんですが、さて。初陣となる日曜は兄貴分に気後れせず、勇敢に戦うチームの姿をバジェカスのファンに披露できれば、とりあえず及第点はもらえるんじゃないでしょうか。

一方、ここ2、3シーズン、1部残留確定に苦労していたヘタフェは今季は風向きが変わったようで、10位という落ち着いた順位で、降格圏とも勝ち点16差と超余裕。前節、セルタにコリセウムで3-2と勝った後はむしろ、EL出場圏6位のベティスとの方が5差と全然、近いぐらいなんですが、早くも金曜にはビジャレアル戦を迎えることに。そんなヘタフェで今週、話題になっていたのは、マドリーをコリセウムに迎えた20節、0-2とコロッと負けてしまった兄弟分ダービーで、ベリンガムが同胞のグリーンウッドを「rapist(強姦魔)」と侮辱。その件をクラブがラ・リーガに訴えていたところ、その報告書が水曜には協議委員会に回り、処分対象となるかどうか、審査されることでした。

いえ、実際に音声がある訳ではなく、もしかしたら、ベリンガムは「rubbish(クズ)」と言っただけかもしれないんですけどね。確かにグリーンウッドは数年前、現在の奥さんと交際中にDV疑惑があったものの、最後はその訴えも取り下げに。それでもマンチェスター・ユナイテッドではチームから隔離されたままだったため、今季から、ヘタフェで更生に努めているんですが、特に本人からはベリンガムについて、何の申し立てもなかったよう。おかげで少々、不可思議な展開になっているんですが、果たしてこの結末は如何に。チームの方は、今はケガ人も長期リハビリ中のアランバリしかおらず。出場停止の選手もいないため、ラ・セラミカでの一戦は今季まだ1勝しかしていない、アウェイでの2勝目を狙うのにいい機会になりそうです。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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