北陸新幹線延伸で福井の経済界どう変わる…福井県立大学地域経済研究所長が語る期待とリスク

「北陸新幹線が県内開業すれば、関東とのビジネス交流が活発になる」と話す松原所長=福井県永平寺町の福井県立大学永平寺キャンパス

 北陸新幹線延伸が福井県内の経済に及ぼす影響について、福井県立大学地域経済研究所の松原宏所長(67)は「関東とのビジネス交流が活発になり、研究開発に携わる高度人材の対面接触が増えることによるイノベーション(技術革新)が期待できる」と前向きにとらえる。一方で「若者、女性が東京に出て行くリスクはある」と述べ、都市部に人材が吸収されるストロー現象に懸念を示した。

 ―北陸新幹線延伸によって、観光、ビジネス面で人の動きはどうなるか。

 「18歳以上の東京圏在住者へのアンケートでは、福井に行ったことがない人が57.1%。新幹線がつながりメディアに福井が露出すれば、一度は行ってみようとなる。誘客はかなりのインパクトがあるはずだ」

 「多少の雪や台風でも動く新幹線は、福井と関東のビジネス交流を活発にするだろう。互いに顧客開拓ができる。高度人材の交流で新しい事業、商品開発にもつながる可能性がある」

 ―一方でストロー現象の懸念もある。

 「従業者1人当たりの売上高の都市間比較で、例えば情報産業をみると、東京都区部は福井市の約2倍。当然賃金格差があり、それがより見えやすくなる。労働力が東京に吸い取られるリスクはある。不便なアクセスという環境に守られてきた産業は、競争にさらされる」

 ―観光の経済効果は。

 「観光客が増えれば域外所得が流入する。そのお金を域内でどう循環させるかだ。地元産の食材を使うとか、付加価値の高い土産物を開発し、伝統産業に還元するとか。どうやって波及効果を大きくできるかを考えていくべき」

 ―観光資源はあるか。

 「東尋坊や年縞(ねんこう)、三方五湖などは地形の不思議さもあり興味をひく。金沢にはない魅力だ。例えば東尋坊をもっと地学的、学術的に説明してくれると、さらにひかれる。英語で説明すれば、インバウンドも期待できる。インスタ映えを狙うだけでなく、観光資源をより磨き上げてほしい」

 「歴史なら一乗谷朝倉氏遺跡や平泉寺、自然なら年縞、スポーツならサイクリングコースなどテーマ別で観光ツアーのメニューを用意し、PRすることで、初めて福井を訪れた人がリピーターになってくれるかもしれない。地元の人は気付いていないが、食を含め福井には魅力ある観光資源が多い」

 ―ものづくり県としての売り出し方は。

 「東京圏在住のアンケートでは、工場見学や体験型観光に若者が興味を示していた。例えば繊維産業の体験メニュー、工場見学をツアーに組んだり、駅前に体験型の産業観光スペースを設けたりするのは有効だろう」

 ―福井市の中心市街地活性化について。

 「都市機能や産業が郊外に広がり、福井をはじめとする地方の中心市街地は空洞化している。新幹線に乗り、観光客が福井駅近くのホテルに泊まっても、目の前の風景がさびれていれば『もう一度来たい』とはならない。まちなかににぎわいを生み出す拠点があれば、観光客にとってプラスの印象になる」

松原宏(まつばら・ひろし) 1956年生まれ。東京大大学院理学系研究科博士課程修了。西南学院大教授、東京大大学院総合文化研究科教授などを経て2023年から現職。専門は産業立地や地域経済の理論・実証・政策の研究などを行う経済地理学。東京大名誉教授。 3月16日の北陸新幹線福井県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」は第7章に入りました。テーマは「福井へのエール」。食や2次交通、まちづくりなど各分野の関係者6人に開業への思いや期待を聞き、福井の発展の可能性を探ります。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。

シンフクイケン・各章一覧

【第1章】福井の立ち位置

【第2章】変わるかも福井

【第3章】新幹線が来たまち

【第4章】駅を降りてから

【第5章】ハピラインにバトン

【第6章】福井が変わる

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