若者は都会を目指す

 諫早市出身の詩人、伊東静雄は長らく大阪に住んでいたが、晩年にはUターンを熱望していた。終戦直後、知人に「長崎に久しぶりに帰り、改めてその美しい風景、しっとりとした人情、豊かな物資などを見直し…」と手紙をしたためた▲伊東は戦争で混乱した都会の生活に疲れていた。新型コロナウイルス禍の最中には大都市から地方へ移住する人が増えたが、伊東の心境と似たものがあったかもしれない▲コロナ禍が一段落すると、若い世代は仕事や便利さを求め再び都会へ向かった。総務省の統計によると、昨年の東京都は転入者が転出者を上回る「転入超過」が6万8千人を超えた。前年より80%の増加だ▲長崎県では昨年、15~29歳の若者1万4千人が他都道府県へ転出した。この世代だけで県内の全転出者のほぼ半数になる▲ただ、都会に移住した地方出身者の子育て環境は厳しい。住宅価格は高く、遠くに住む両親ら親族のサポートを得るのも難しい。東京都の合計特殊出生率は1.08と全国最低だ。人口の東京一極集中が日本の少子化に拍車をかける▲この春もたくさんの若者が都会へと旅立つ。そこでは伊東のように故郷の良さに気付くことも多いだろう。忘れないでほしい。都会暮らしに疲れたら、いつでも温かく迎えてくれる古里があることを。(潤)

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