【西武】目的は経費節減? 12球団で最も遅いキャンプインの真の意味とは?「我々が危惧するのは――」

事情がわからない人は“リーズナブルキャンプ”と呼んでいるのだそうだ。

宮崎県の日南市南郷でキャンプを張っている西武は12球団で最も遅い2月6日にキャンプイン。1クール分、遅れて始まることから経費節減が目的だなどの声があるという。

しかし、実際、チームへは意外な声が届いていると平石洋介ヘッドコーチは話す。

「他球団から聞かれるんですよ。遅れて始めるのはどうなのかって。みんな気になっていると思いますよ。我々として危惧するのはキャンプが間延びすること。それは避けたいなって。でもウチだけでなく多くのコーチが感じているところだと思います」

何のためのキャンプか。チームが勝つためであり、選手が成長するため。それがいつしか、練習のための練習をすることに主眼が置かれてしまうことは、日本の社会で多く起こりうる。プロ野球キャンプにおいてもそれは同じなのかもしれない。

西武キャンプが遅れて始まるのは今年が初めてではない。昨年に引き続いての改革だが、第2、3クールを取材していて思うのは効率的に練習しようという空気が伝わってくる一方、選手たちのエンジンの回転数が鈍いというわけではない。

「3年目の僕がいうのも生意気かもしれないんですけど、開幕がそこまで早いわけじゃないし、別に毎年、同じ日に始める必要はないんじゃないかなって思います」

そう語ったのは中継ぎ投手のひとり、佐藤隼輔だった。第2クールの3日目、その佐藤は1人、通常と別メニューをこなして汗を流した。別メニューといっても、故障をしたのではない。自身のピッチングを作りあげていく上で大事にしていているメニューを取り入れたのだ。

「1年目の秋くらいの時に内海(哲也/現巨人投手コーチ)さんに教えてもらったんです。下半身を上手く使うのにいい練習になる。僕はどうしても上半身が強いので、上だけでいってしまうところがあるんですよ。それがこの練習をすることでリズムが作れるというか。このキャンプでは今日が初めてですけど、いい感じにはなっているなと思うんですよ」

佐藤が特別に取り入れているのが一塁ノックを受けてそこから三塁へ送球するという練習だ。この日は三塁ベース上に十亀剣スカウトを立たせてノックを受けていた。

キャンプが遅れて始まることの意味はこうした選手の姿勢にも影響している。各球団がキャンプインしている中で個々が集合までに計画を立てて自主トレに励みシーズンに合わせていく。練習メニューを用意するからそれに沿ったことをやるだけにはならず、選手それぞれを自立させている。昨今ではパーソナルトレーナーと契約する選手も多いというのもあるが、時間を与えることで選手は考えるようになり、それが練習の質を向上させる要因にもつながっているのだ
佐藤は2クールの4日目にはBPをこなした。昨季から持ち味となっている右バッターのアウトコースへ強いストレートを投げ込み、打者を差し込んでいた。ブルペンに入らずともうまく状態を上げている印象だ。

佐藤は話す。「ほとんどゾーンに投げられていたのは良かったと思います。今日も上はリラックスしてそれなりに投げられていたので、昨日やったように、下から上へという体の動きはしっかりできていたのかなと思います。シーズン中は野手が練習していてできないので、感覚を失わないようにしておきたい」

佐藤の取り組みが面白いと思ったのはBPをやるからといって前日にブルペンに入っていないところだ。投げ込んで調整するより体の動きを再確認する練習を取り入れる。シーズン中にできる練習ではないから、この時期だからこその確認作業であろう。佐藤の考える力が表れていると言えるだろう。

一方でキャンプインからブルペン入り4連投をこなした増田達至のような選手もいるわけで、選手それぞれ調整方法が異なる。選手全員では同じではないからこそ特別な花が咲く。日本は往々にして促成栽培でみな同じようなものを求めたがるが、それぞれが異なっていい。

「僕が現役の頃とは全く変わりましたね。投げる量も減ってきました。でも、だからと言って練習をしていないわけではなく、その分、今の選手たちはいろんなことをやるようになってきていると思います。それ以外の練習が多いというか」

そう語ったのは十亀スカウトだ。スカウトさえも練習に駆り出されてしまう面白い光景ではあったが、チームスタッフはそうして選手の調整のお手伝いをしている。それぞれに肩書は異なるが、チームは一つの方向の元へ向かっている印象だ。効率的な練習の雰囲気にはみんなが一体となる空気感さえ見える。

平石コーチはいう。

「効率的な練習をしているように見えるといっていただけるのは嬉しいですね、僕たちは常に、これでいいかなと思って効率的にやろうとは思っていますけど、常に、これでええんかなというのは考えています。キャンプインの開催時期は僕らも不安なところがなかったわけではないです。監督とも話していて、今年は選手たちは調整してきてくれるかな、どんな感じになるのかなと思ったんですけど、ほんと、いつ実戦しても良いくらいに選手は調整してきてくれて安心しました」。

プロは結果の世界だから、これが正解と決めつけることはできない。ここから如何に結果に結びつけていくかは球団が努力していくところだ。今季は西武の他にオリックスが1日遅れてキャンプをスタートさせている。つまり、続いている球団があるのだ。

西武の改革は進んでいるのか。それは今シーズン以降の結果で証明してくれることだろう。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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