金門島沖合いでの中国人漁民死亡、中国ネット民は憤激も当局は抑制的―台湾メディア

台湾の中央通訊社は17日付で、金門島水域で14日に発生した台湾側の取り締まりに伴う中国大陸側漁民が死亡した件に対する中国大陸側の反応を分析する記事を発表した。

中華民国(台湾)国営メディアの中央通訊社は17日付で、金門島水域で14日に発生した台湾側の取り締まりに伴う中国大陸側漁民が死亡した件に対する中国大陸側の反応を分析する記事を発表した。中国政府は同件を非難し、大陸側インターネットではさらに過激な報復攻撃を主張する書き込みも見られる。ただし、中国側は抑制的であり、同件のエスカレートは望んでいないとの声が出ているという。

大陸側政府が非難、ネット民は激しく憤激

台湾側沿岸警備部門である海巡署によると、同件の発端は中国大陸側の快速艇が14日に越境して金門島水域に入ったことだった。海巡署の船が検査しようとしたところ快速艇は逃走し、大きく舵を切った際に転覆した。海巡署員は海に投げ出された乗組員4人を救助し応急処置を施したが、うち2人が死亡した。快速艇に乗っていたのは大陸側漁民で、違法操業を目的に金門島水域に入ったとされる。

金門島は福建省泉州市沖合いにある12の島からなる群島で、大陸側から2.1キロの距離にある。1940年代後半の国共内戦の際には中国人民解放軍が奪取しようとしたが失敗。1958年には大規模な砲戦および一部では海戦も発生したが、現在に至るまで台湾(中華民国)側が実効支配を続けている。台湾側の行政区分では金門島が、「福建省金門県」とされる。

中国大陸側の国務院台湾事務弁公室の朱鳳蓮報道官は、「春節(旧正月、2024年は2月10日)期にこのような(台湾海峡)両岸の同胞の感情を甚だしく傷つける悪質な事件が発生した。台湾側を強く非難する」と表明した。朱報道官はさらに「(台湾の)民進党当局がさまざまな口実を設けて大陸側漁船を検査押収し、大陸側漁民を乱暴かつ危険な方法で扱っていることが、この事件を招いた主たる原因だ」と批判した。

ただし台湾側によると、今回の事件で金門島水域に入った快速艇は、船名、船舶登録証、船籍港の登録を持たない「三無船」と呼ばれる船だった。つまり、中国大陸側の規則でも違法船だったことになる。台湾側で大陸側との交渉などを担当する大陸委員会は、「今回は大陸籍船員が公務執行への協力を拒否したために不幸な事件が発生した。深く遺憾に思う」と表明した。

大陸側では多くのネット民が怒りを爆発させた。まず、「(台湾側の)公然たる挑発だ」として、朱報道官による「大陸側漁民を乱暴かつ危険方法で扱っている」の主張に同調する書き込みがある。さらに、「仮に、台湾を今攻撃することが不可能なら」との書き出しで、台湾への全面侵攻を支持することを示唆した上で、「われわれの現在の実力からすれば、台湾の悪意ある行為に対して厳罰に処すことは難しくない」と主張する書き込みがある。これらの過激な書き込みの中には閲覧回数が5000万回以上に上ったものもある。

中国政府が実際には冷静である背後に“後ろめたさ”

しかしシンガポールの南洋理工大学ラジャトナム国際関係学部のベンジャミン・ホー教授は米タイムに対して、同事件ついての中国側の反応は比較的冷静であり、怒りの声が湧き上がってはいるが、中国大陸側が事件を拡大させる可能性は低いとの見方を示した。

シンガポール国立大学のチン-ハオ・ホワン准教授は、中国当局が穏健な反応を示した理由の一つは、快速艇の不法行為を「黙認」していたことだとする分析を示した。

ホワン教授は「越境したのが誰で、適切な登録なしに船を操ったのが誰かであるか、どちらに過ちがあったのかは明らか」と指摘し、中国大陸側は、今回の事件に厳しく対処するための合法的な根拠がないことを理解し、認めていると分析した。

ホワン教授はさらに、中国側にとって漁民が死傷することは、戦闘機や無人機が撃墜されるほどの重要案件ではなく、気にすべき優先事項ではない可能性があると指摘した。

中央通訊社記事は、台湾は越境する中国人漁民の取り締まりを続けていると紹介。例えば2023年9月には、台湾海峡の台湾寄りの場所にある台湾当局が実効支配を続けている澎湖諸島海域に進入した大陸側漁船が、台湾側に拿捕された。中央通訊社は、中国当局は紛争海域、特に南シナ海でも領有権を強化するために、漁船や漁民をしばしば利用しているとの見方を示した。

中央通訊社は、1月の台湾総統選で民進党の頼清徳氏が当選したことで、すでに緊張していた両岸関係はさらに大きな不確実性に直面することになったと指摘。さらに、「大陸側が台湾に対してさらに好戦的な態度で臨むかどうかを判断するには時期尚早だ」と論じた上で、「中国側が今回見せた抑制の度合いは、中国当局が今後、紛争よりも外交を優先する幅広い戦略を取る可能性があることを示唆しているのかもしれない」との見方を示した。(翻訳・編集/如月隼人)

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