昨年10月下旬、宇都宮市内の集合住宅。4人で暮らす母子家庭の部屋の呼び鈴を、支援者の門馬芳子(もんまよしこ)さん(71)が鳴らした。このドアの向こう側で、中学2年の千秋(ちあき)さん(14)=仮名=は母親(50)と、千秋さんと2歳違いの兄、弟と暮らしている。
扉を開け、顔をのぞかせた母親が門馬さんを部屋に招き入れた。靴が雑多に並ぶ玄関の先には、飲みかけのペットボトルや脱ぎっぱなしの服が、まるでごみのように床一面に散らかっている。母親は、その上を渡るように移動する。
数年前から、一家に食料を届けるなど支援を続ける門馬さん。この日は部屋の片付けを手伝いに訪れた。
平日の午前10時。
「子どもたちは?」
門馬さんが尋ねると、母親は「みんな寝ているよ」とため息交じりに答えた。
◇ ◇
生活保護を受けているこの母子家庭は、母親のパート代と生活保護費、児童扶養手当など合わせて月十数万円で暮らしている。母親は「3食自炊すればなんとかやっていける金額のはず」というが、食事を外食やコンビニ弁当で済ませてしまう日も多く、なかなかうまくやりくりができない。
それでも、少しでも節約しようと電気の契約アンペアは20アンペアにとどめている。
炊飯器と電子レンジは同時に使えない。エアコンの使用も極力控える。
「今ご飯炊いてる?」
千秋さんは髪を乾かす前に、家族に聞く。炊飯中にドライヤーのスイッチを入れると、ブレーカーが落ちてしまう。確認を忘れ、目の前が真っ暗になることもしばしばだ。
◇ ◇
片付けを始めて30分が過ぎたころ。千秋さんが目をこすりながら、作業をしている台所へ入ってきた。
学校の始業時間はとうに過ぎている。でも、慌てて準備をする様子はない。部屋の隅に座って、片付けの様子をじっと眺めている。
「給食だけでも食べに行ってくれたらいいんだけどね」と漏らす母親も、登校をせっつくことはしない。
「いらない教科書は千秋ちゃんにしか分からないから」。門馬さんに促され、千秋さんも手伝い始めた。床に散らばる不用になった教科書を仕分け、黙々と束ねる。
千秋さんは小学校中学年の頃から、たまに学校へ行ったり、行かなかったりという毎日を送っている。
学校が嫌なわけではないが、現在は家を出ている姉もそうだった。兄も弟もみんなそう。ずっと家にいることは、千秋さんにとって当たり前になっていた。