2歳で小児がんになった娘。「あんなにつらいことを乗り越えたのになぜ…」腫瘍摘出から3カ月でまさかの再発。治療を迷っていたとき、ある一人の女性との奇跡の出会いが【体験談】

パパの肝臓の一部を移植したあとの香鈴ちゃんとパパ。

中学1年生の高田香鈴ちゃん(13歳・千葉県)は、2歳3カ月のころに小児がんの一種である「肝芽腫」が見つかりました。腫瘍摘出手術は成功しましたが、その後まもなく再発し、肝移植手術を受けることになります。
現在、闘病を乗り越えて元気に暮らす香鈴ちゃん。2024年2月15日の国際小児がんデーに行われた「小児がん治療支援チャリティーライヴ」のダンスパフォーマンスに出演しました。ママの美香さん(40歳)に、再発後の手術や闘病のことについて話を聞きました。
全2回のインタビューの2回目です。

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9カ月もの入院治療、やっと退院した3カ月後、まさかの再発

1回目の手術のあと退院した香鈴ちゃん(左)と弟の斗眞くん、仲よくアニメを見ています。

2歳3カ月ごろに見つかった肝芽腫の腫瘍摘出手術を2歳7カ月ごろに受け、前後のつらい抗がん剤治療も乗りきって、2014年7月の3歳のお誕生日に退院した香鈴ちゃん。
退院後も2週間〜1カ月ごとに通院し、血液検査などを受けてがんの再発がないかどうかをチェックしていました。

「1回目の手術で全摘したと言われて安心していましたが、退院してから夏の間に何度か発熱を繰り返していました。2週間に1回の通院での血液検査でも、検査のたびに、結果が少しずつ不安定になってきていました。さらに3カ月に1度 行うとされていた最初のCT検査のため、1泊の検査入院をした10月、がんが再発しているとわかりました。

「まさかの再発でした。9カ月ものつらい治療を頑張ったし、15cmの腫瘍は全部取れたとのことだったのに・・・。大変なショックでした。医師の説明は肝臓内に影が見られるから、できるだけ早く生体肝移植をしたほうがいい、というものでした。
そんなことになるとは想像もしていなかった私は、肝移植についてまったく何も知らず、肝移植の先にあるのは”死”ではないか、と思ってしまいました。移植手術をしたら娘は長くは生きられないんじゃないか、死んでしまうんじゃないかと思っていたんです」(美香さん)

肝移植の経験者と偶然の出会い

移植手術後、車椅子からおりて遊びたがっていた香鈴ちゃん。

美香さんは香鈴ちゃんのがんの再発に大きなショックを受け、生体肝移植を受けるしかない、と言われつつも悩んでいました。ところが、ある人との出会いでその考えは180度変わることになります。

「香鈴の3歳児健診で自治体の集団健診に行ったときのことです。問診票には肝芽腫のことや手術のことなどを記載しました。すると、私たち親子の担当になってくれた保健師さんが、肝移植のドナー経験者だったんです。その人の娘さんが生後すぐに肝移植手術が必要となり、肝臓を提供したそうです。
こんな偶然があることかと驚きました。そして『今は大人と同じぐらい大きくなって元気で過ごしていますよ』と話してくれました。
これはとってもうれしく、ありがたい情報でした。

健診のあとも連絡を取り合うようになり、なんと娘さんを連れて香鈴が入院している病院に会いに来てくれたんです。元気な娘さんの姿を見て、私も夫も『移植を受けてこんなに元気になれるなら、やるしかない』と決意しました」(美香さん)

美香さんは生まれつきの持病があるので、ドナーになるとしたら夫の眞政樹さんでした。

「肝臓を提供する夫の体のことも心配でした。3歳児健診で知り合った保健師さんに、ドナーになった気持ちや、体調のことや疲れやすさなどについても聞くことができ、安心しました。そしてさらに、小児の生体肝移植にかかわる家族たちのコミュニティも紹介してもらいました。

SNSでつながった人たちから生体肝移植のことをいろいろと聞くことができ、とても励みになりました。そして、都内の病院に小児の肝移植にすばらしい先生がいるという情報も聞きました」(美香さん)

香鈴ちゃんが入院していた大学病院では当時、肝移植手術はできず、転院する必要がありました。

「その都内の病院でセカンドオピニオンを受けることにしました。担当の先生に会って話を聞くと、『香鈴ちゃんがこれから長い人生を生きることを、かなえてあげられるかもしれない』と言ってくださったんです。

その言葉を聞いて、夫と2人で心が決まりました。娘は、抗がん剤治療は大学病院で、移植手術は都内の別の病院で、と二つの病院で治療を受けることになりました」(美香さん)

パパの肝臓の一部を移植

香鈴ちゃん、小学校の入学式で。

香鈴ちゃんは2014年2月に大学病院に入院し、抗がん剤を使った化学療法を行いました。そして3月に都内の別の病院転院し、3月27日に肝移植手術をし、眞政樹さんの肝臓の一部が香鈴ちゃんに移植されました。

「ドナー適合の検査で夫は脂肪肝になりかけているとわかって、肝移植のために2カ月くらいで体重を10kgほど減量してくれました。娘のために頑張った夫は、かっこよかったです。今は完全にリバウンドしてますけど(笑)」(美香さん)

移植後の香鈴ちゃんの回復力はめざましく、通常は1週間ほどICUに入院するところを、3日で一般病棟に移動となったそうです。

「移植手術をしたあと、娘は急激に遊びたい欲がわいていました。肝臓移植直後って、肝臓から腹腔ドレーンというビニールパックみたいな胆汁が排出されるものがついている状態なんですが、それにも構わず『(病院の)プレイルームで遊びたい!』と。やせほそった体でつらくないのかな、と心配になるんですが・・・そんな体でも車椅子からおりて遊びたいとせがむ、娘の生命力の強さに驚きました。そして夫の肝臓が移植できたことが本当によかったと感じました」(美香さん)

肝移植後、少しずつ元気を取り戻した香鈴ちゃん

生体肝移植手術をした3歳の退院時にもらったメッセージボードと、中学1年生になった香鈴ちゃん。

1カ月ほど経過を見た香鈴ちゃんは4月に大学病院に再度転院し、抗がん剤を使った化学療法を行って、2014年6月に退院となりました。4歳のお誕生日を迎える直前でした。

「退院時は娘は幼稚園の年中さんの年齢でしたが、長期に渡るがんの治療で体力もなく、免疫力が落ちている状態で感染症にかなり気をつける必要がありました。2年間の入院で、病院の外の普通の生活に慣れるのにも少し時間がかかります。抗がん剤の副作用で髪の毛も少なかったこともあり、すぐに集団生活には入れず、まずは親子の時間を過ごすことにしました。

平日の日中なら、子どもの遊び場も人が少ないので、一緒に出かけて遊んだり、体力をつけるためにスイミングを習い始めたり、『こどもちゃれんじ』に取り組んだりもしていました。その時期に始めた書道は今もずっと続けていて、もう8年になりました」(美香さん)

香鈴ちゃんは年長から幼稚園に入園し、小学校入学後にはテーマパークダンスを習い始めます。

「娘はおなかを大きく切る手術を2回受けているので、クラッシックバレエのようにかなり体のやわらかさが必要な動きをすると、手術跡がつっぱって痛いらしいです。鉄棒などの腹部を圧迫する運動も避けるように言われています。それでも体を動かすことは大好きなので、いろいろと探していたら、お友だちがテーマパークダンスを紹介してくれました。

テーマパークダンスは、バレエやジャズのリズムを取り入れた、テーマパークのショーなどで用いられるスタイルのダンスです。姿勢も正しくなるし、体に無理のない動きで、しかも本人のやりやすいペースで挑戦させてくれる先生に出会えたこともあり、小学校6年間、楽しく続けることができました」(美香さん)

TRFとステージで一緒にダンスする夢の舞台

LIVE EMPOWER CHILDRENのステージ

香鈴ちゃんが小学校6年生だった2023年冬、美香さんのもとに小児がん支援の団体から1通のメールが届きました。それは、小児がん治療支援チャリティーライヴ「LIVE EMPOWER CHILDREN(以下、LEC)」のダンスチームの参加者募集の案内でした。小児がんを克服した5歳から18歳までの子どもたちとTRFがコラボするダンスステージです。

「LECが初開催された2020年から家族で毎年楽しみに観ていたので、『これは二度とないチャンスだ!』と応募したところ、なんと当選! 当選通知が届いたとき、『今まで頑張って病気と闘ってきたごほうびだね』と娘に伝えると、『本当に生きててよかった!夢みたい!』と大喜びでした。

娘は、TRFのETSUさんとCHIHARUさんのお手本動画を見て、何度も何度も自宅練習を重ねました。『難しい~』と言いながらも持ち前のチャレンジ精神を発揮して頑張って、本番を迎えました。もともとDa-iCEさんが大好きだった娘は、憧れのスターと同じステージに立てて本当にうれしかったようです。

今年も応募してみたら、なんと当選。先日リハーサルを終えたところで、楽しみすぎて練習にも力が入っています」(美香さん)

今、香鈴ちゃんは中学1年生。今も3カ月に1度、大学病院で採血検査を受け、移植手術を受けた病院へは年に1回腹部エコーと採血検査を受けています。毎日の免疫抑制剤の服用は欠かせませんが、運動もでき、健常者とほとんど変わらない生活を送っています。

「抗がん剤治療や移植手術などを受けた子は、成長してから晩期合併症といって、なんらかの障害が現れる可能性があり、定期的なチェックは欠かせません。生活で気をつけなくてはならないことも、少しのことで不安になることもありますが、小さな体で病気と闘って乗り越えてきた娘には、今の人生を思いっきり楽しんでほしいと願っています。

娘は、私が子ども食堂の手伝いをしていることがきっかけで、児童相談所などの仕事に興味を持っているようです。将来は福祉にかかわる仕事に就きたいからと、すでに志望高校を決めて、進学のために勉強を頑張っています」(美香さん)

お話・写真提供/高田美香さん、取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

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取材の数日前に参加したリハーサルでは、ダンスチームの子どもたち同士で、車椅子の子を手助けするなど自然な優しさが見られたそうです。美香さんは「闘病を乗り越えて人の暖かさを感じてきた子どもたちの心の優しさに感動しました」と話してくれました。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年2月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

小児がん治療支援チャリティーライヴ「LIVE EMPOWER CHILDREN 2024 supported by 第一生命保険」

2024年2月15日、18:00からABEMA、LINE VOOM、U-NEXT、Lemino、TikTok、YouTube、Z-aNの7つのサービスでオンライン配信が実施されました。参加アーティストは、きゃりーぱみゅぱみゅ、倖田來未、ゴスペラーズ、SAM・ETSU・CHIHARU・DJ KOO from TRF、Da-iCEほか。2月15日以降は、U-NEXT、YouTube、Z-aNの3プラットフォームでアーカイブ配信が視聴可能。公式サイトより寄付もできます。

小児がん治療支援チャリティーライヴ公式サイト

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