「自分の良さが出せなくなって...」オーストリアで苦悩する20歳FW二田理央が手本にする日本代表戦士「同じような悩みを乗り越えて今があると思う」【現地発コラム】

努力は人を裏切らないという。だが、やっただけすべてがうまくいくほど世の中のことは簡単ではない。どれほど真剣に取り組んでも、どれだけいろんなやり方を模索しても、うまくいかないときはうまくいかないものだ。

そうした時に先人が道を切りひらいた成功体験は、いま迷いの中にいるものにとって、確かな光となる。オーストリア2部リーグのザンクト・ペルテンで元サガン鳥栖のFW二田理央はまさに苦悩を抱えながら、必死に、がむしゃらに戦っている。

ザンクトペルテンはシーズン前には昇格候補に挙げられていたクラブだ。パワーバランス的にボールを支配し、相手チームが守備を固めながらカウンターという形式の試合が多いという。シーズンが進むにつれてその傾向はどんどん強くなり、相手チームの研究は進み、そうなると二田のようにスピードを生かした裏抜けが得意な選手はなかなか生きにくくなる。

「そうですね。監督からもちょっと言われてて。2部では自分たちがボールを持てるチームで、そうすると引いてくる相手チームが多いんで、背後にスペースがない。そこをもう消されちゃうと、自分の良さが出せなくなってしまっています。ボールを受けてはたいたりとか、ちょっと中盤に落ちてボールを引き出してという動きだと、自分は他の選手より苦手なところがあります」

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スペースめがけてタイミングを合わせて走るだけではなく、味方の動き、相手の動き、試合の流れを考えて、駆け引きしながらパスを効果的に引き出すのは簡単なことではない。タイミングを合わせよう、合わせようとすればするほど、一拍遅れたり、速くなってミスの要因となってしまう。

「自分の良さが出せなくなって、出場機会、時間も少しずつ減っていった。自分の慣れないポジションでもやらないといけない技術がそのときはなくてっていう感じで。そこからちょっと(気持ちが)落ちていっちゃった。うまくいかないなとか、不満だったりとかもいろいろあったのは確かです」

選手なら誰でも自分の得意なプレーでアピールしたいし、貢献したい。それができるだけの自信だってある。でもサッカーは自分たちだけで構築されるものではないし、長いシーズンでは様々な要素を考慮することが大切になる。試合を円滑に進めるため、不用意なミスを減らすため、連続的にチャンスを作り出すため、そして効果的にゴールを決めるために監督は様々なことを考える。そこでかみ合わず、構想外となる選手が出てきてしまうことがある。

とはいえ、自分の得意なプレーがいまできなければそこで終わりなわけではない。そしてヨーロッパでいま活躍している選手のほとんどが、こうした苦悩と向き合い、乗り越えてきているのだ。
現在はボーフムで活躍する日本代表FW浅野拓磨が最初に挑戦したのはシュツットガルトだった。そのころの浅野は「スピードは評価されている。それを生かして得意な裏抜けをしたいけど、うまくスペースを消されてしまう。中盤に落ちてもらおうとするけど、そこの技術とか身体の使い方がまだでそこでつぶされる」と、いまの二田と同じような悩みを口にしていた。

でもそこで自分の弱さと向き合いながら、特徴を出すための取り組みをし続けていった。何年もかけて、経験を積み上げ、そしていま、ブンデスリーガクラブで中心選手として活躍できるようになったのだ。

「浅野選手だったりとかが、そうやって自分と同じような悩みだったりをかつて持っていて、でもそれを乗り越えて今があると思うので、自分も自分の弱さや弱点を認めて、素直に認めて、やれることをやるしかないっていうふうに思っています。僕には諦めるという選択肢はない。努力し続けるだけです。

できないことをできるようにして、自分のよさも消さずにやっていけば。この何年後かとかにこの経験してよかったなとか、あのとき頑張ってよかったなって思えるように、今、後悔しないようにやるだけです。自分への自信を持ちつつ、自分の弱さと向き合って、日頃から誰よりも努力するっていうのは忘れちゃいけない」

その目に宿る光は本当に力強いものがあった。努力は成功を保証したりはしない。でも努力なきところに成功は訪れないことは歴史が証明している。新たな誓いを胸に正しき努力を重ねていく。オーストリアの地で奮闘を続けた先に、どんな未来が待っているのだろう。今後も注目して追いかけたい。

取材・文●中野吉之伴

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