【ハンドボール】ライトバックは味ある選手ぞろい | ポジション解説 | JHL名鑑vol.4

JHLで活躍するライトバックの選手。左から橋本南、檜木祐穂、原田大夢、高智海吏、松浦慶介(いずれも久保写す)

ハンドボールの各ポジション役割、求められる資質について、日本リーグ(JHL)でプレーする選手(プレー経験のある選手も含みます)のプレースタイルとともに紹介します。第4回はライトバックです。昔で言う右45度は左利きのエースのポジションですが、右利きにも味わい深い選手がいます。このポジションにどういう選手を起用するかで、チーム事情や監督のハンドボール観などがよくわかります。(Pen&Sportsコラムニスト・久保弘毅

【ロングシュートが強烈】趙顯章

左利きのライトバックにとって、最大の見せ場はロングシュート。特にイン(左手側)へ行って、引っ張り(シューターから見て右)に打ち込むシュートは、角度があってGK泣かせです。

趙顯章(豊田合成)はクロスでインに行ったあとの引っ張りのシュートが強烈です。ジャンプ力があって、リーチも長いから、縦にも横にも角度がつきます。このロングシュートが決まりだしたら、手がつけられません。デネル・ヤーニマー(大同特殊鋼)はコンパクトなモーションから突然ロングを打ってきます。大きくて粘っこい趙顯章のフォームとは対照的に、ヤーニマーは速く鋭く、10mからでも叩き込みます。女子では中山佳穂(北國銀行)が国内最高のロングシューターです。世界選手権でも話題になった「ありえないくらいしなる左腕」が特徴です。鄭智仁(オムロン)は来日当初、横流しのパスばかりで消極的でした。チームに慣れた今季は、気持ちよくロングを打っています。中村歩夢高木奈央(ともにイズミ)は、イズミが誇る左の長距離砲。酒巻清治監督は「中村は豪快に腕を振り切る。高木はDFの枝を見て、丁寧に打ち分ける」と、違いを説明していました。2人の使い分けにも注目です。 

【カットインが力強い】高智海吏

ロングシュートと対になる武器がカットインです。インに回り込んでのロングと、アウトを割るカットインがあれば、インとアウトで攻撃のバランスが整います。

高智海吏(トヨタ車体)は39歳になった今でも、驚異のアスレティック能力を誇ります。5本の足指でフロアをつかむように動き、多少無理な体勢でも柔らかい足首でシュートまで持ち込みます。その動きは「身体芸術」と言ってもいいでしょう。稲毛隆人(安芸高田ワクナガ)は力強いカットインで、愚直にゴールを狙います。周りを生かせる器用なタイプではありませんが、丈夫な体で得点源になります。山田隼也(トヨタ自動車東日本)も「接触上等」のプレースタイルで、チームの士気を高めてくれます。先入観で不利な判定をされがちですけど、チームを思う気持ちは人一倍です。森本方乃香(三重バイオレットアイリス)はゴリゴリのカットインが身上の肉体派。正統派の左腕エースらしい動きはできませんが、コートの少し左側で強さを発揮します。

【トリッキーなシュート】金城ありさ

どの競技でも「左利きには、左利きにしかわからない感性」があると言います。器用な左利きはファンタジスタであり、ハイリスクハイリターンでもあるので、好みがわかれます。しかしそこは、右利きの我々が口出しする範疇ではないのでしょう。

三重樹弥(トヨタ紡織九州)はトリッキーの代表格。瓊浦高校OBらしく、個人技の引き出しが豊富です。上から下から時には右手からと、変幻自在に打ちまくります。エースの自覚も出てきて、近年はリスクを控えて、より高確率なシュートが増えてきました。金城ありさ(ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング)はステップシュートのバリエーションがあります。身長160㎝でも高い位置でリリースできるから、9mの外からでも得点できます。金城のシュートはある意味「一期一会」。その場限りのひらめきが魅力でもありますが、最近は「プレーの再現性を意識している」そうです。 

【視野が広い】松浦慶介

パスセンスのあるライトバックがいると、攻撃が連続します。打って終わりではなく、ノーマークになっている味方をいち早く見つける「視野の広さ」がある左利きは、ほんの一握りです。

松浦慶介(大崎電気)はピヴォットへのパスを好む左腕です。センターの川島悠太郎(大崎電気)とのクロスから始まり、そこにピヴォットを絡めるまでがワンセット。文字通り「ポストに落とす」感じのパスを得意としています。東長濱秀希(ジークスター東京)は興南高校時代から視野の広さが抜きん出ていました。右側にDFを寄せてから、レフトウイングへの飛ばしパスが真骨頂です。 

【小柄でも広いスペース】橋本南

「小柄だから、あなたはウイングね」と決めつけてしまうと、よさが消えてしまう場合があります。スペースの狭いウイングだと、プレーが窮屈になってしまう選手もいるのです。小柄でも、広いスペースで色んなプレーをすることで、味が出る選手もいます。そういう選手の特性をちゃんとわかって使える監督は、いい監督ですね。

河原脩斗(大同特殊鋼)はライトウイングで出場する機会も多くありますが、本質はライトバックです。デネル・ヤーニマーがマンツーマンDFで守られた時は、バックプレーヤーに上がって展開力を生かします。またDFではフットワークを生かして、2枚目を守ります。福田将太(安芸高田ワクナガ)は広いスペースの1対1が得意な選手。攻守のバランス上、ライトバックで使える時間帯は限られますが、ウイングに閉じ込めておくのはもったいない選手です。橋本南(大阪ラヴィッツ)はライトバック、ライトウイング、センターと3ポジションを掛け持ちすることでよさが出る選手。1対1の強さに速攻での片手キャッチなど、できることが多いのが特徴です。DFも柔道仕込みのフィジカルで、サイズ以上に守れます。 

【右利きは位置取りで勝負】檜木祐穂

ライトバックに右利きの選手が入ると「展開が右に流れてしまう」と言われますが、決して悪いことだけではありません。右利きには少し難しいポジションだからこそ、独自の技でチームに貢献する選手もいます。

津屋大将(トヨタ自動車)は門山哲也チームディレクターから「位置取りで勝負する男」と言われています。世界的な名手ミケル・ハンセン(デンマーク代表のレジェンド)みたいに、センターのほぼ隣に位置を取り、広くなったスペースを割っていきます。檜木祐穂(アランマーレ)は利き腕をずらしてのアウト勝負が得意な選手。相手からは「アウトしかないぞ」と言われているのに、なぜか止められません。並木梨紗(オムロン)は左利きの鄭智仁と2人でワンセット。試合後半にベンチから出てきて、攻撃の流れを変えてくれます。中島沙里奈(飛騨高山ブラックブルズ岐阜)は、以前はしつこい2対2が持ち味のセンターでした。今季は主役の座を齊藤詩織に譲り、球離れが格段によくなりました。アウトスペースを抜いてからのループシュートで、新境地を開拓しています。 

【右利きは守備力でも貢献】原田大夢

レフトバックとセンターに攻撃的な選手がいる場合、ライトバックに守備型の選手を置くのもひとつの手です。攻守のバランスを整えてくれる選手を1枚入れておくことで、試合運びがスムーズになります。 

原田大夢(豊田合成)は「合成のチャレンジ枠」とも言える右の2枚目DFでチャンスをつかみ、今ではチームに欠かせない戦力に。大型左腕の趙顯章がインに行きたがる傾向にあるので、原田を入れることでアウトへの展開が増えて、攻撃のバランスが整います。北原佑美(ソニー)は高岡向陵高校、大阪体育大学と、佐々木春乃(ドルトムント/ドイツ)の相棒のような位置づけだったため、右利きのライトバックが本職です。クレバーなDFだけでなく、真ん中に移動してきてのミドルシュートも入ります。

熊﨑かずみ(三重バイオレットアイリス)は強肩のオールラウンダー。どこでもやれる器用さもありながら、年明けからはDFの意識が高まっています。當山桃加(ザ・テラスホテルズ)は東海大時代はライトウイングでした。東長濱秀作監督は當山の非凡な身体能力に着目し、バックプレーヤーに抜擢しています。ルーズボールに飛びつくなど体を張ったプレーで、チームに活気をもたらしています。

【オールラウンダー】末岡拓美

本職のライトバックが少ないチームでは、オールラウンダーで補う時間帯が出てきます。特別にすごいプレーはしなくていいから、チームのマイナスにならないよう安全運転でプレーしてくれる選手がいると、非常に助かります。

末岡拓美(大崎電気)はどこでもできるのが魅力ですが、大同特殊鋼時代は「ライトバックの2番手」に固定されて、よさを出せずにいました。大崎電気に移籍してからは、岩永生監督に「ポジションに関係なく、拓美のよさを出してくれ」と言われて、試合のなかでの貴重なつなぎ役になりました。OFではウイングやピヴォットなどでもそつなくプレーし、DFでは2枚目も3枚目も守れるので、重宝されています。南夏津美(イズミ)もスコアのうえでは目立たないオールラウンダー。「死に役」になることを心得ている選手で、自分が打つよりも、お膳立てするタイプです。今はチーム事情でセンターの1番手になっていますが、複数のポジションを埋める補助役で使った方が、味が出ます。 

【守れる左利きは最強】中川翔太

左利きは若いころから「OFだけやっとけばいいよ」と甘やかされがちです。またセンスのある左利きは、身体接触を嫌う傾向にあります。だからこそハードに守れる左利きのライトバックは、商品価値が高いのです。

渡部仁(トヨタ車体)は攻守で2ポジションを担えるスーパーマン。OFではライトウイングから後天的にライトバックになりました。DFでは1枚目と2枚目の両方を守れます。日本代表にも才能ある若手の左利きが増えてきましたが、攻守のバランスを考えると、最年長の渡部は絶対に外せません。正しい筋トレで鍛えた強靭な体で、まだまだやれそうです。潘恩傑(琉球コラソン)は台湾代表ではピヴォットをしていることもあり、身体接触を嫌がりません。ルーズボール、リバウンドにも率先して飛び込むなど、体を張ってボールを奪います。もう少しチーム戦術にフィットしてくれば、OF面でもよさが出てくるでしょう。中川翔太(トヨタ自動車東日本)は法政二高校時代、「守れる場所がないからトップDF」という扱いでした。しかし今では高校時代の恩師・阿部直人監督から3枚目を任されるほど、DFでの信頼が増しています。長い手足で精力的に動き回り、味方が抜かれたらすぐさまフォロー。人懐っこい性格と、少々ギャルっぽいガッツポーズも魅力です。

木村翔太(ゴールデンウルヴス福岡)はまだ内定選手ですが、日本では数少ない「左利きのトップディフェンダー」です。左利きに人材がひしめく大阪体育大学ではレギュラーにはなれませんでしたが、トップDFでの嗅覚、判断力は間違いなく即戦力。3:2:1DFを取り入れているウルヴスに、一番フィットしそうな新人です。

以上、ライトバックの適性、資質の紹介でした。次回はライトウイングを取り上げる予定です。

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