“高金利”で痛手を負った米金融機関…今後金利が下がっても「苦境」に追い込まれるワケ【相場のプロが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

2023年3月にシリコンバレー銀行などの3行が破綻した米国。ハイペースな金利上昇によって米国内ではほかにも多くの金融機関が危機に瀕しています。本稿では、若林栄四氏の著書『The Ultimate Prediction 2028年までの黄金の投資戦略』(日本実業出版社)より一部を抜粋し、米国の銀行を待ち受ける危機について解説します。

米国の地方のリジョナル・バンクスの苦境

2023年3月、突如、シリコンバレー銀行など3行が取り付け騒ぎで破綻退場を余儀なくされた。これに対するFRB以下金融当局の態度はまったくお話にならないお粗末さであった。

そもそも1年間で金利を5%も引き上げておきながら、傘下の金融機関のマチュリティー・トランスフォーメーションの惨状をまったく把握できていなく、検査にもろくに手を付けていなかったことが判明した。

金融機関は短期借り、長期貸しのマチュリティー・トランスフォーメーションが基本のビジネス・モデルである。短期金利が一気に5%も上昇すると、銀行は短期借りで高いマネーを調達(低い金利の預金は流出)する一方で貸し出しのほうは低い金利のままという状態に置かれる。

低金利時代に余資を大量の債券投資に振り向けていたシリコンバレー銀行は、金利上昇による債券価格の急落でバランスシート上の痛手を受けた。

しかし、債券は基本的には期日までホールドすれば100%で戻ってくるので、債券価格の下落による損失はペーパー・ロスで実損ではない。

ところが低利の預金が大量流出し始めると、銀行は資金調達に窮し、市場で保有債券を売らざるを得ないところに追い込まれた。その結果ペーパー・ロスは実損になってしまった。

その損失の実態がSNSで一気に世間の知るところとなり、預金流出が加速し、たった3日間で破綻に追い込まれた。

破綻した3行の、預金保険対象(25万ドル)を超える預金者の救済が政治問題になる。

預金保険対象以上の預金は預金者の責任で損失は預金者自身が被るというのが、米国預金保険制度の原則である。ところが政治的なバックラッシュを恐れた金融当局は、議会に諮ることもせずに、うやむやに政府が全額補填したのである。

2008年のリーマン・ショックに際し「TOO BIG TO FAIL」として巨大金融機関を税金(タックスペイヤーズ・マネー)で救済したことは、金融当局の大きな失敗であり、その後、議会で同様の事態が起こらないようにドッド・フランク法が成立したが、トランプ政権時、共和党の圧力で法律の力は緩められウォーター・ダウン(水で薄められた)レジスレーション(立法)となり、今回の政府全額補償につながったのである。

地方の中小金融機関は今日も預金の流出が続いている。

米国で1年間に1兆ドルのM2減少をみていることでも明らかである。

商業用不動産の不況

これらの中小金融機関を襲う危機はまだ収まっていない。

米国型の商業施設として、一時、米国小売業界を席捲した全国展開のショッピング・モールは、いまや集客力が落ちて、2016年以降でこれらの商業用不動産の価値は44%下落したといわれている。

これは業界では周知の事実で、スロー・メルティング(ゆっくりした恐慌)と一部金融専門家のあいだで呼ばれてきた。それが2020年の感染症の大流行でさらに痛手を被ったことはいうまでもない。

感染症の被害は一部商業用不動産の業界にも及んでおり、オフィス用のビルディングの不況が深刻になりつつある。

一般的な米国の銀行の、平均的なバランスシートでみると、38%のアセッツが商業用不動産のモーゲッジ(住宅抵当)といわれている。

とくに2008年以降は大手の銀行が不動産貸し出しを控えた結果、地方の中小銀行が商業用不動産貸し出しに力を入れた。銀行の商業用不動産に対する与信は3.6兆ドルといわれている。これは彼らの預金残高の20%に上る。

2015年から2022年のあいだに2.2兆ドルの増加である(これらの数字はWSJによる)。

一方、オフィスビルの価格は2022年初めからでみると25%の値下がりとなっている。

感染症による出社制限でホーム・オフィスが圧倒的に増え、いまや米国の週5日働くオフィス・ワーカーの3分の1は、自宅からの労働となっている。

その結果、たとえばNYシティーではコロナ前の水準の41%しかオフィスの稼働がなく、ガラガラのビルが溢れている。NYのオフィスビルの値段は今年50ビリオンドル(約7兆円)値下がりするといわれている。

なおこれから2〜3年のあいだにこれらの商業用不動産のモーゲッジの更改で、1兆5,000億ドルが低金利から、いまの高金利に切り替えられるといわれている。

すでに相当苦しい業界は、さらにこれから状況が悪化することになる。当然、業界では倒産が増え、その結果リジョナル・バンクスが、危機に陥ることは明らかである。

住宅用不動産は、高金利でそれほど被害を受けていない。というか、圧倒的に数の多い、既存住宅の売りが出ないのでマーケットは買いが目立ち、住宅価格は下がらない。なぜ売りが出ないかというと、圧倒的多数の住宅は、低金利の時代、住宅ローンの40%を占める長期フィックス(15〜30年固定金利)が3%台でファイナンスを受けているからである。

いま住宅を売りに出すと、買い替え時に7%を超えるローンを組まされる。ということで、安い金利のモーゲッジを放棄する、既存住宅の売りは出ないのである。

それがどうして困るかというと、3%の固定金利で住宅ローンを組んでいる銀行が、現在の調達金利との逆ザヤをもろに被っているわけである。

隣国カナダでは固定金利は5年までと決めて、銀行が過大な金利変動リスクに遭わないような政策をとっている。

米国は30年固定まであり、銀行は巨大なリスクを負っている。金利が下がって住宅の売りが大量に出てくると、いまの住宅価格の水準が維持できるのかむずかしいところである。

いずれにせよ、高金利なら銀行は逆ザヤローンで苦しい、金利が低下すると今度は売り手が一気に出てくることから住宅価格が下がる。担保価値は落ちるというどちらに転んでも苦しい状況に追い込まれている。

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