「番号では伝わらない」覚悟の実名で法廷へ 子宮頸がんワクチン訴訟、足利の倉上さん本人尋問臨む

週に数回、就労支援カフェで接客などを担当する倉上さん。子宮頸がんワクチンを巡る訴訟で本人尋問に臨む=8日午後、足利市八幡町

 「原告56番」から実名で法廷へ-。国が接種を呼びかけた子宮頸(けい)がんワクチンが全身の痛みなどの副反応を引き起こしたとして、接種を受けた女性たちが国と製薬会社2社に損害賠償を求めた訴訟の口頭弁論が21日、東京地裁で開かれる。原告の一人、栃木県足利市、倉上万莉佳(くらかみまりか)さん(25)は今回初めて、実名で出廷し本人尋問に臨む。「自分や家族の苦しみを深く知ってもらいたい。同じ被害を生まないために」。覚悟を胸に、証言台へ向かう。

 倉上さんは小学6年、12歳の時に子宮頸がんワクチンを3回接種した。今も激しい倦怠(けんたい)感や認知機能の低下、睡眠障害などの症状に苦しむ。

 高校時代は複数の症状が波のように現れては消えた。大学受験はかなわず、目標だった「食の研究」は遠のいた。同級生は社会人になった。「自分だけ時間が止まったまま。悔しい」

 同ワクチンを巡っては2016年7月、23都道府県の女性63人が東京、名古屋、大阪、福岡の4地裁に一斉提訴。倉上さんは19年7月の追加提訴で原告に加わった。ただ、誹謗(ひぼう)中傷の恐怖から「原告56番」として裁判に臨んできた。倉上さんを含め、被害を訴える女性の多くは医師らから「心の問題」と指摘されたり、「反ワクチン」などと差別的な扱いを受けたりしてきたためだ。

 「番号では被害の実相が伝わらない」。そう考え始めたのは今年1月ごろ。ワクチン接種について国は22年4月、積極的な勧奨を再開した。訴訟で製薬会社側は「安全性は医学的、科学的に確立している」と請求棄却を求めた。そうした中、各地で副反応に苦しむ女性たちと出会ったことも気持ちを後押しした。

 「隠れないで堂々と生きたい」。支えてくれる家族と相談を重ね、裁判を実名で闘うと決めた。「私も家族も幸せな時間を奪われた。今も苦しんでいることを多くの人に知ってほしい」と話す。法廷では自分の言葉で思いを伝えるつもりだ。

週に数回、就労支援カフェで接客などを担当する倉上さん。子宮頸がんワクチンを巡る訴訟で本人尋問に臨む=8日午後、足利市八幡町

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