壮大な“風間改革”が進行中の南葛SC。関東リーグ1部のクラブとは思えない活力と熱はどう生まれているのか【スペシャルインタビュー前編】

寒風が吹きすさぶ1月某日。

それでもグラウンドには熱量が詰まっていた。

東京都葛飾区にある水元総合スポーツセンター。トレーニングを行なっていたのは『キャプテン翼』の原作者である高橋陽一氏がクラブのオーナー兼代表を務め、「葛飾からJリーグへ!」をテーマにしている関東リーグ1部所属の南葛SCだ。

その中心には2024年シーズンより監督およびテクニカルダイレクターに就任した風間八宏氏の姿がある。トップチームの選手数は40人と大所帯。そのため20人ずつを2グループに分けてトレーニングを行なう変則的な形を取っていたが、風間監督の下で、“止める・蹴る”など技術力を意識した選手たちの姿が、グラウンドには広がっていた。

「選手たちが、だいぶ望み出してくれている。自分自身も子どもたち、大学、そしてその先のトップチームを指導してきたけど、アカデミーを含めた全体を見ることができるこのチームは、これまでの経験の融合となる。もの凄く可能性があると感じているし、ベテランという見方は普段からしないけど、キャリアを重ねてきた選手たちも、もう一回やりたいと言ってくれている。そういう意味ではすごく良いチームになっているなと」

年明けから指導をスタートさせた風間監督も目を細める。

【PHOTO】華やかなダンスパフォ! Jクラブチアが国立に大集合!

チームには高卒や大卒ら若い選手からワールドカップ経験者の稲本潤一や今野泰幸らまで幅広い世代が所属。風間監督は一人ひとりと個人面談を行ない、ベテランを含む全員の強い決意を確認した。

そのなかで今野はミニゲームなどでも積極的な姿勢を披露。今季は“選手兼コーチ”である稲本に関しても風間監督は「まず選手として挑戦してもらって、監督の目から見て良ければ起用するし、そろそろ違うタイミングかなと思ったら別のアドバイスをする。イナとの関係性は川崎時代と変わってなくて、彼はプロのなかのプロだから」と話す。

彼らに代表されるように、チームから伝わってくるのは“本気度”である。風間監督も強く頷く。

「自分は上手い選手を求めているわけではない。逆に言うと、誰でもいくらでも上手くなることができる。そこには上限がない。だから一番大事なのは“戦える選手”かどうか。いかに戦う技術を増やしていくか、そこが一番大事。

言い換えるなら本気の選手だよね。その意味で南葛には本気の選手が集まってきている。本来、チームには『教えてもらおう』ではなく、『自分が上手くなりたい』という想いが必要なわけで、そういう選手たちが集まってくれた。だから毎日変化が起こっていて、昨日は良くなかったと思っていた選手が、翌日にはガラッと変わったりしている。驚きの連続だよね」

【記事】「とっても華やかです」国立にJクラブチアが大集合!「アビチアちゃん完全優勝」「袖あってよかった」などの声

【PHOTO】編集部が厳選! ゲームを彩るJクラブのチアリーダーを一挙紹介!

【記事】Jリーグと欧州の最大の違いは? イニエスタの回答は――「日本は止まることがない」「ハイライトを見ても…」

関東リーグ所属とあって、自前の練習場はなく、葛飾区のいくつかのグラウンドをスケジュールに合わせて活用している。それでも前述の2グループ制など、風間監督の下で様々な仕組みを作りながら前に進んでいるのだ。

風間監督は2019年に名古屋の指揮官を離れたあと、C大阪のアカデミー技術委員長(現在も兼任)などを務めてきた。プロクラブの監督ではない目線で過ごしてきたここ数年の体験も生きているという。

「自分自身もここ数年の経験からより仕組み作りができるようになった。それは良いことだなと。40人を自分が常に見るとなったら今のやり方になるし、選手は自主トレを積めば積むほど上手くなる。そこまでの形を考えながら、今後はもっと説明を短くし、時間も短くしていきたい。

仕組みを作ると無理が比較的無理じゃなくなり、大きな可能性が出てくる。例えば午前中しかグラウンドを使えないとなっても、3時間使えるならやりようがある。練習量もコントロールできる。いつも人のせい、モノのせいにしないと言っているけど、選手も理解してやってくれているし、一番は選手が上手くなりたいと思った時に、その環境を揃えてあげること。感情や感覚を優先するわけではなく、理論と仕組みでしっかり向き合って、みんなが上手くなるように導いていければなと」

今後はアカデミー選手や、女子チーム「WINGS」の選手もトップチームのトレーニングに合流させ、クラブ全体を活性化させるプランもあるという。それは風間監督が全体を統括し、仕組みを作っているからこそできる強化方法である。

当初は40人もの選手の顔と名前を一致させることに困ったと冗談を口にするが、風間改革は力強く進行していると言えるのだ。

さらに、現場での伝え方もより変化しているという。

「ここ数年は小さい子どもから自分より年上の方まで幅広い世代に分かってもらえるように指導してきたからね。だから伝え方も変わってきている部分があり、サッカーを観たことがない人たちに『面白い』と言ってもらえるような言葉も増えているのかなと。

自分が話していて『この選手、聞いていないな』と感じることはある。でも、それは自分が聞かせることができていないだけで、こちらの力不足だったのかもしれない。その意味では、カメラマンの人や、まったくサッカーを知らない人が横にいてくれ、そういう人たちに理解してもらえる説明こそが、まさしくシンプルで求められるモノになる。

ただ過去と比べる必要はないけど、南葛の選手たちは理解も習得も早い。それは僕らがやってきたサッカーが世の中に浸透してきているということなのだと思う。選手も予備知識を入れて加わってくれているし、自分自身もアップデートして変わっている。ずっとやってきた活動が広がり、重なり、いろんなところに浸透しているのかなと」

風間サッカーのベースが広がりピッチの上で進化していく。そしてクラブとしても、さらなる壮大な目標を描いている。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

© 日本スポーツ企画出版社