「関西に行ったことがない」男性が宇治茶を発信する施設の館長に 「できることを一つずつ」

宇治茶の歴史が学べるミュージアムで、「お茶を好きになってもらいたい」と話す酒寄さん(宇治市莵道)

 酒寄直人さん(57)は京都府宇治市が京阪宇治駅の隣に設けた観光拠点施設「茶づな」(莵道)の館長を務める。「周遊観光を促すプラットホームの役割を果たしつつ、地域の人のつながりをつくる場にもしていきたい」と語る。

 茶づなは、豊臣秀吉が築いた宇治川太閤堤跡(国史跡)を観光誘客に活用する目的で整備した「お茶と宇治のまち歴史公園」内にある。宇治茶を紹介するミュージアムや体験コーナーなどを備えており、「観光客にはまず茶づなに来て、宇治茶を好きになってもらいたい」と力を込める。

 経歴は多彩だ。大学卒業後、大手証券会社に就職し、バブル崩壊の荒波に直面。OA機器メーカーの営業をへて、ラーメン店や居酒屋チェーン店の経営などに携わった。

 東京生まれで、ずっと関東地方で暮らしてきた。「宇治はおろか、関西にほぼ行ったことがなかった」という。そんな中、市の委託を受けた茶づなの運営会社が、第三セクターの観光果樹園で働いていた経験に関心を持ち、館長として白羽の矢が立った。知らない土地で不安もあったが、「一からつくり上げていく仕事に価値や魅力を感じ、引き受けた」

 だが、出だしから苦難が続いた。施設は当初2021年6月の開業を予定していたが、新型コロナウイルス禍に見舞われた。4カ月遅れでオープンしたものの、行動制限もあり集客に苦しんだ。

 「言い訳はできない。できることを一つずつやっていこう」。観光客に限らず、地域の人も集えるよう毎月恒例のマルシェや夏祭りを企画し、徐々に定着してきた。コロナが落ち着き、最近は外国人観光客や修学旅行生の誘致に向けた商談などに駆け回る。

 年明けから宇治とゆかりのある紫式部の生涯を描くNHK大河ドラマ「光る君へ」の放送が始まり、3月11日から茶づなでドラマ展が開催される。追い風が期待される中、「飛躍できるチャンス。逃したくない」と口元を引き締める。宇治市木幡。

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