社説:非正規春闘 賃金引き上げの裾野広げよ

 春闘が本格化する中、パートやアルバイトなど非正規労働者が参加する労働組合が、企業側に大幅な賃上げを求める取り組みを強めている。

 企業内や産別の労組でも、非正規の賃上げ拡大を求めて動いている。

 非正規雇用の賃金に影響する最低賃金の引き上げは続くが、物価上昇には全く追いつかず、生活の苦しさを訴える声は強まるばかりだ。

 労働者の約4割を非正規雇用が占める。日本経済の底上げには、多様な形態の働き手に賃上げをはじめ処遇改善が広がることが欠かせない。経営側は正面から受け止める必要がある。

 今月、各地の労組や労働団体など20組織が連携して「非正規春闘」実行委員会をつくり、組合員が働く企業に対し「10%以上」の賃上げを要求した。昨年は「一律10%」だったが、今年は物価高の強まりに対する組合員の危機感を反映させて目線を上げた。

 実行委には今年から、3万8千人の非正規雇用の組合員が加盟する全国生協労働組合連合会が参加し、運動が全国規模に広がっている。

 同様の動きは大手企業の労組にもあり、NTT労組は非正規労働者を含むすべての従業員を対象にした共通のベースアップ要求を掲げる。

 これまでの春闘は正社員を中心に進められてきた。非正規雇用で働く人たちは企業との交渉機会を持つことはほとんどなく、最低賃金の引き上げが事実上、唯一の賃上げへの契機となっていた。

 しかし、最低賃金は全国平均で時給千円超となったものの、フルタイム勤務で総支給額19万円、手取りは15万~16万円にとどまる。岸田文雄政権が掲げる「2030年代半ばまでに最賃1500円」は遠すぎて、暮らしの展望は開けない。そんな危機感が「非正規春闘」を動かしている。

 一方、イオンが今春闘でパート従業員の時給を平均7%上げる方針を打ち出すなど、大企業を中心に非正規労働者の賃上げの動きも目立ってきている。

 背景にあるのは、人手不足が深刻化する中、優れた人材を確保するには処遇改善が欠かせないとの経営側の判断が大きい。経団連は今年の春闘に向けた報告書で「有期雇用社員の賃上げ・処遇改善」の必要性を、独立した項目で取り上げた。

 報告書はその上で、非正規も含めた中小企業の賃上げの重要性に言及し、そのためには「大企業が中小企業のコスト転嫁の申し入れをスムースに受け入れること」が不可欠と言及した。実行力こそ問われる。

 労働者の低賃金を放置していては社会、経済の存立基盤が危うい。労使で立場は違えど問題意識は共通しているのではないか。状況の改善につなげてもらいたい。

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