リーグ最高勝率を残すイーストの“本命”セルティックス。現地記者が語る今季のチームの強みとは?<DUNKSHOOT>

NBAの2023-24シーズンはオールスターゲームが終わり、いよいよ後半戦を迎える。トレード期限には多くのチームが戦力補強を行なったが、それでもイースタン・カンファレンスの本命はボストン・セルティックスで変わらないだろう。

開幕から突っ走ってきたセルティックスは2月7日、メンフィス・グリズリーズからゼイビア・ティルマンを獲得してフロントコートの層を厚くすることに成功。優勝17度を誇る名門は、ポール・ピアース、ケビン・ガーネット、レイ・アレンのビッグ3を擁し頂点になった2008年以来となるファイナル制覇の準備を整えたのか。

セルティックスのここまでを振り返り、未来を占うべく、『Mass Live News』の日系人記者、寺田惣一氏(X : @SouichiTerada)に意見を求めた。セルティックス番記者として3年目を迎えた寺田記者の目にも、自身が継続的に取材するチームの強さは印象的に写っているようだ。(以下、寺田記者の1人語り)
今季のセルティックスはよりバランスのいいチームになった印象があります。昨季のチームは前半戦に圧倒的な勝率を記録しましたが、その当時は3ポイント成功率が約44%とシーズンを通じての維持は現実的に難しいと思える数字で決まっていたことが大きな要因だったんです。

それに比べ、今季は3ポイントの数字は特筆すべきものではありません。その一方で、ジェイソン・テイタム、ジェイレン・ブラウンという2本の軸に加え、ポストプレーで点が取れるクリスタプス・ポルジンギスが加わったことが大きく響いてきました。

振り返ってみれば、マイアミ・ヒートと対戦した去年のカンファレンス・ファイナルでも、相手守備陣のスイッチに対応しきれず、セルティックスのオフェンスがスローダウンしたことが敗因になりました。2年前のシリーズでは勝ったものの、同じ理由でヒートに大苦戦しました。それが今季はポルジンギスの加入でオフェンス全体が向上し、その強さはより維持可能なものになったと感じています。

テイタム、ブラウンもともにオールスターに選ばれたことが示す通り、優れたプレーを続けています。テイタムは2、3月になるとプレーの質が向上する傾向があり、今年もプレーオフの前にペースを上げてくるかもしれません。

デリック・ホワイトも昨年11、12月はオールスター候補の声が出るほどの好調ぶりでした。1月は平均得点は下がりましたが、ディフェンスの貢献度は変わっていません。ガードなのにブロック力もあり、ホワイトは本当に優れたロールプレーヤーだと思います。

攻撃は強力でも、2シーズン前に最優秀守備選手を受賞したマーカス・スマートが抜けたため、当初はディフェンスの弱体化を懸念する声が挙がっていました。スマートはディフェンスのコミュニケーションを円滑にする“守備のクォーターバック”のような存在。ロッカールーム&ディフェンスのリーダーが不在となったことを不安に感じたファン、関係者は多かったのです。
ただ、同じく守備に定評があるドリュー・ホリデーの加入はやはり大きかったですね。ブラウンはオフェンスの数字こそややダウンしているのものの、守備では大きな貢献を果たしています。こうしてホリデー、ブラウン、同じく新加入のポルジンギスが頑張っているおかげで、セルティックスはディフェンスでもクエスチョンマークはなくなりました。

去年は個々の選手の才能頼みのシンプルなディフェンスでしたが、今季は2-1-2のゾーンであるとか、プレスをかけたりとか、チーム全体で新しい方向性を試したりもしています。35歳と若いジョー・マズーラHCも就任2年目を迎え、サム・キャセール、チャールズ・リーといった優れたコーチが加わり、去年と比べてコーチ陣が安定したのも大きかったのでしょう。

選手の中では、33歳のホリデー、28歳のポルジンギスという2人のベテランがロッカールームでも存在感を発揮しています。リーダーと呼べるのはやはりテイタム、ブラウンで変わりありませんが、ポルジンギスは明るい人柄でメディアからも人気です。また、ブラウンとポルジンギスは同じコンドミニアムに住んでいることもあってかとても仲が良く、移動の飛行機でもいつも一緒に座っているそうです。
ホリデーもかつてNBAの最優秀チームメイトを3度も受賞したような好漢で、2021年に優勝経験もありますから、チーム内でリスペクトを勝ち得ているのは当然でしょう。こういった新加入選手たちのおかげでチーム全体のケミストリーは順調にレベルアップしていると見ています。

このようにいい方向に向かっていることは確実な中で、懸念材料があるとすれば、プレーオフのクラッチタイムにこれまでと同じようなパフォーマンスができるかどうか、ですね。テイタム、ブラウンは若くして経験豊富ですが、ポルジンギスはプレーオフでは目立った実績があるわけではありません。先ほども話した通り、去年のプレーオフではクラッチタイムに手詰まりになっていただけに、今季もその部分は気になります。

あとは昨季と比べて今季のチームは層の厚さがもうひとつだけに、故障は怖いところですね。1、2人のケガ人が出たら厳しくなりかねないとは思います。

もっとも、これらは“弱点”というよりは“未知の要素”。私も今シーズンのセルティックスは強いと思っています。2年前のファイナルでのテイタムはゴールデンステイト・ウォリアーズから徹底マークを受けましたが、その苦闘を経て、今ではダブルチームされた際に良いパスが出せるようになりました。そんな流れに代表されるように、これまでチーム全体で積み重ねてきた様々な経験が、今年のプレーオフでは生きてくるんじゃないかと見ています。
イーストでライバルになるのはやはりミルウォーキー・バックスだと思います。ヤニス・アデトクンボに加え、デイミアン・リラードが加入して破壊力はアップしました。ただ、今のセルティックスならリラードにはホリデー、ホワイト、テイタム、ブラウンといった選手たちが守備面でプレッシャーをかけていけるでしょう。バックスはディフェンスの弱さが気になり、そう考えていくとセルティックスには悪いマッチアップではないのかもしれません。

あとはやはりヒートが怖いですね。去年のプレーオフでセルティックスは下位シードのヒートに敗れましたし、メンタルの強さ、エリック・スポールストラHCの指導力は健在です。とはいえ、去年のプレーオフではケイレブ・マーティンのような伏兵の3ポイントが決まりすぎたこともあり、今季のセルティックスなら適応できるのではないでしょうか。
この2チーム以外ではジョエル・エンビードが元気な時のフィラデルフィア・セブンティシクサーズ、躍進中のニューヨーク・ニックスもいいチーム。今年のプレーオフは面白そうですね。

ただ、今シーズンのセルティックスに対するボストンのファンの期待感はかなり大きいものがあります。実際に心身ともに充実しており、過去2年の手痛い負けを肥やしにできている感じがします。私の目から見てもセルティックスの先行きは有望であり、終盤戦、そしてプレーオフと、大舞台でどんな戦いを見せてくれるかを今から楽しみにしていますよ。

文●杉浦大介

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