夫殺害の容疑に問われたベストセラー作家 夫婦の闇をめぐる法廷劇 カンヌ映画祭最高賞受賞作

輝かしいキャリアを持つ妻が一転、夫殺しの容疑者に?

理想の夫婦から一転、ベストセラー作家が夫を殺した罪に問われた法廷で夫婦の闇が明らかにされるヒューマンサスペンスです。2023年カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した、映画『落下の解剖学』が2月23日(金)から全国順次ロードショーされます。

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【写真】栄誉ある賞を獲得したのは.....ワンコ!?

物語の主人公は、ドイツ人のベストセラー作家サンドラです。彼女の夫はフランス人で、夫が故郷の雪山に建てたログハウスにサンドラ・夫・息子の3人で暮らしています。

夫のサミュエルは教師をしながら作家を目指しています。11歳の息子ダニエルは交通事故が原因で視覚に障がいがあり、飼い犬のスヌープがダニエルの生活を支え、サミュエルが自宅学習を助けています。

ある日、ダニエルとスヌープが散歩から戻ると、家の前でサミュエルが血を流して倒れていました。

「ママ! ママ! 早く来て!」

ダニエルの叫び声を聞いたサンドラが駆けつけますが、すでに夫サミュエルの息は止まっていました。

「3階の窓から落ちたみたい」

夫はログハウスの3階でリフォーム作業をしていて、転落したようです。しかし警察の検視によると、夫の死因は転落事故なのか誰かが頭を殴った殺人事件なのか、それとも自殺なのかはっきりしませんでした。夫サミュエルの遺体には頭に大きな外傷があり、サンドラに殺人の疑いがかけられます。サンドラとサミュエルは前日に激しい夫婦げんかをしていたのです。

サンドラは古くからつながりのある弁護士ヴァンサンに連絡を取り、弁護を依頼します。

「現場にいたのは君だけ。そして君は彼の妻だ」

「私は殺していない」

サンドラはヴァンサンに自分が昼寝をしていた間に起きたことで、関わっていないと説明し、ヴァンサンは「夫サミュエルは窓から落ちて物置の屋根に頭部をぶつけた」と主張することにします。また窓枠の位置の高さから、サミュエルの死因は転落事故ではなく自殺だと結論づけました。これに対しサンドラは「息子の目の前で自殺するはずがない」と考えて反論しますが、半年ほど前に夫が薬を飲んで体調を崩したことを思い出します。

警察はダニエルにも事情聴取を重ね、科学的な現場検証を繰り返し、サンドラは起訴されます。

サンドラが殺したという明確な証拠はありませんでしたが、ベストセラー作家が殺人の罪に問われた裁判にメディアが注目し、法廷の前にはカメラマンが数多く集まります。

互いを尊重する対等な関係を築いて理想的な夫婦だったサンドラとサミュエルですが、裁判が進むと、法廷に立つ証人や検事から次々と夫婦の秘密や嘘が暴露されました。裁判を傍聴する息子のダニエルは混乱します。

さらに夫婦が口論し殴り合うような様子が録音されていたことが分かり、証拠として法廷に流されます.....。

フランスの映画です。公開5週目で観客動員100万人を超える大ヒットを記録しました。

主人公のサンドラ役をドイツ生まれのザンドラ・ヒュラーが演じました。人気作家の知的な表情と冷酷さや感情を爆発させる演技を披露し、今年度の国際映画祭で主演女優賞の候補として何度も名前が挙がっています。監督は、今作が長編4作目となるジュスティーヌ・トリエ。共同で脚本も手がけています。トリエ監督は撮影を始めてすぐにザンドラの演技に圧倒されたそうです。「彼女には内側からにじみ出る現実味があって、それがセリフの一つひとつにあふれていた」と称えています。さらに、ザンドラが脚本に疑問を投げかけ、何シーンか書き直すようにアドバイスを受けたことがあった、と明かしています。「彼女には手に取るように感じられる存在感があり、彼女の役に対する解釈は本作に忘れ難い印象を残してくれた。撮影が終了する前に確信したの。彼女が自分の一部をこの作品に捧げてくれたから、唯一無二の演技を撮ることができたのだとね」(トリエ監督)

今作は2023年カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞しました。ゴールデン・グローブ賞では脚本賞と非英語作品賞を獲得しています。アカデミー賞には作品賞・監督賞・主演女優賞など5部門にノミネートされています。

カンヌ映画祭では家族の愛犬スヌープに扮したボーダーコリーのメッシが、優秀な演技をした犬に贈られるパルムドッグ賞を受賞しました。映画『落下の解剖学』は、2月23日(金)公開です。(SJ)

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