「噛んでいて差し歯がとれた」被災地で欠かせない口腔ケア 歯科専門チームが能登半島地震で奮闘【わたしの防災】

能登半島地震から50日以上が経過しました。長引く避難生活のなか、警戒しなければいけないのは「口腔ケア」です。口の中の衛生状態が悪化して肺炎などになると命にかかわります。静岡県の専門チームは被災地を巡回して、健康を守る支援に奮闘しました。

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<JDAT静岡 歯科医師 今村陽一郎さん>
「僕たちができる、お口の中の指導をして、もしニーズがあれば歯の治療までしていきたいと思います。午後もよろしくお願いします」

2月、能登半島地震の被災地に入ったのは、静岡県の歯科医師会が派遣した口腔ケアの専門チームJDATです。災害医療チームJMATのMはメディカルですが、JDATのDはデンタル。まさに歯に特化した災害支援を行います。

2月11日、この日は避難所などを巡回していました。その途中、地震が発生し、緊急地震速報が流れました。

<和田啓記者>
「緊急地震速報ですね。揺れてます」

<小林祐カメラマン>
「木とかは揺れてないよ」

<JDAT静岡のメンバー>
「津波の心配ありません。大丈夫そうです。」
Q.続行で?
「はい」

余震への警戒を続けながら到着したのは、珠洲市狼煙町の集会所。指定された避難所ではありませんが被災した7人ほどが寝泊まりしています。

<JDAT静岡 歯科医師 今村陽一郎さん>
「歯で困った方がいるという話は聞きますか」

<被災者>
「差し歯がぐらぐらする人が1人いて、呼びに行っています」

まず行うのが「アセスメント」と呼ばれる状況把握です。現場ごと、住民ごとにトラブルの種類が異なります。

<被災者>
「噛んでる途中に(差し歯が)とれたんですよ」

<JDAT静岡 歯科医師 今村陽一郎さん>
「どれですか。左下2番。完全にとれちゃってる」

この住民は、差し歯の調子が悪く食事に支障が出ていました。

<JDAT静岡 歯科医師 今村陽一郎さん>
「歯が折れてないとか問題がなかったら多分つけられますので」

<被災者>
「治療もしてもらえるんですか」

<JDAT静岡 歯科医師 今村陽一郎さん>
「きょうは、その予定で来ました」

<被災者>
「歯医者が復活すれば、すぐ行こうかなと思ったけど、水道が止まっていてもう1か月くらいかかるかと思ったけれど、良かったなと思って」

珠洲市内は、ほぼ全域で断水が続いていて、歯科医院は1つも開いていません。歯磨きなどの口腔ケアができないと、口の中の雑菌が唾液と一緒に体内に入って「誤嚥性肺炎」を発症することがあります。

約200人の災害関連死が出た熊本地震では、3割ほど(28.4%・2017年末時点)が肺炎などの呼吸器系の疾患で亡くなっていて、命を守るためにも口の清潔さを守ることは重要なのです。

<JDAT静岡 歯科医師 今村陽一郎さん>
「さあ、どうですかこれで。後で軽くゆすいでください。元通りですか」

<被災者>
「完璧です。良かった。助かりました。」

<JDAT静岡 金森麻依子歯科衛生士>
「ある程度コミュニケーションを図ってからでないと、お口の中のことってなかなか話して下さらない。世間話とか、そういうところから介入して、歯科のニーズを聞き出すのがすごく大切」

また、水がない時も口腔ケアはできます。市販されている口の中に入れても大丈夫なウェットティッシュを指に巻き付けてこするだけです。

<JDAT静岡 歯科医師 今村陽一郎さん>
「みんなでお口から体を健康にしようと、静岡でも皆さんにこれからもずっと言っていきたい」

被災地支援から戻ってきた歯科医師の今村さんは、早速、静岡県内の歯科医師や行政担当者と一緒に勉強会を実施しました。南海トラフ地震では、今度は他の地域からの応援を受ける側になるので、応援部隊と現場をつなぐ「災害歯科コーディネーター」の設置が必要だと訴えました。

防災バッグの中に歯ブラシを入れている人の割合は静岡市で22%ほどにとどまっているというデータがあります。歯ブラシ一本で救える命がある。私たちも備えを確認しましょう。

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