兵庫県西宮市消防局の西宮消防署(同市津門大塚町)に、阪神間で唯一の訓練用潜水プールがある。直径6メートル、深さ7.2メートルの円筒形。真っ暗で視界の悪い海や川での救難をイメージし、水中の明るさを調整できる。カメラや観察窓を備え、指導役が一緒に潜らなくても的確なアドバイスができるようになっている。(記事・山岸洋介、写真・吉田敦史)
「ゴーグルよし! ヘルメットよし!」。ウエットスーツに身を包み、空気タンクを背負った救助隊員たちが続々とプールへ入っていった。
一方の端にブイ、もう一方に重りのついたロープを水面から垂直に垂らし、それを軸にして4人一組で円を描くように泳いでいく。水底に沈んだ目標を捜す手法の一つ「環状検索」だ。
「消すぞ」。外の指導役が照明のスイッチを切ると、水中は真っ暗に。隊員たちはヘッドライトのわずかな光を頼りに、ほとんど手探りで動いた。
実際の海や川では水が濁り、50センチ先も見えない。「捜索対象が沈んでいる地点を水上から推測し、そこをピンポイントで捜す。その繰り返しです」。指導役の小島将樹消防司令(50)は話す。
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西宮消防署は老朽化した旧庁舎を建て替え、2022年12月に全面運用を開始した。それまでは県消防学校(三木市)や中学校のプールを借りていたため、訓練の利便性は飛躍的に高まった。県内で訓練用プールを持つ消防本部は、ほかに神戸、明石、加古川市だけという。
プールは訓練棟(5階建て)の1~3階部分に収まっており、隊員たちは3階部分の水面から入水。円筒形のプール側面にはいくつも窓があり、外にいるベテラン陣が水中を見つめる。
バディ(相棒)とスムーズに連携できているか、事故を招く動きはないか。「しっかり把握でき、すぐ指導に生かせる。訓練を重ね、水難救助の力を高めたい」。小島消防司令は力を込めた。