生まれたばかりの赤ちゃんの目に腫瘍があったら?「デルモイド」について知っておこう【ママ眼科医】

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「子どもの目の病気について正しい情報を」と活動するママ眼科医の先生たちのリレーコラムをお届けします。
今回は、「デルモイド」について。デルモイドは生まれたばかりの赤ちゃんの目のできものです。東京歯科大学市川総合病院眼科の谷口紫先生による解説です。全6回のリレーコラムの最終回です。

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デルモイドとはどんな目の病気?

デルモイドとは、角膜(黒目の部分)、結膜(白目の部分)、輪部(黒目と白目の境目)に発生する半球状に隆起した良性腫瘍です。輪部にできる輪部デルモイドが最も多いと言われていて角膜の下側かつ耳側に多く見られます。

生まれつき、片方の眼にみられ、大きさは直径3~10㎜程度、触るとかたい感じがします。デルモイドには皮様嚢腫(ひようのうしゅ)や類皮嚢腫(るいひのうしゅ)という別の名前もあります。デルモイドの中身は、毛髪、皮膚、歯、軟骨のもととなる成分が入っていると言われています。

表面に毛が生えていることもあります。輪部デルモイドをもつ一部の患者さんに、副耳(ふくじ)や耳瘻孔(じろうこう)などの耳の異常や、下あごの骨の低形成、背骨の異常を合併していることがあり、その場合はGoldenhar症候群という疾患を疑います。
小児科と連携してしっかり全身検査を進める必要があります。

デルモイドに合併した副耳

耳の穴の少し手前に認めた副耳。当院では形成外科に依頼をして切除してもらいます。

デルモイドがあるとどんな影響があるの?

デルモイドは良性腫瘍であるため、そのままでも、大きくなったり転移したりすることはありません。しかし臨床的には、(1)乱視による弱視(視力が発達しないまま成長すること)のリスク、(2)整容面の問題、の2点を考慮して、手術を決定します。

(1)乱視による弱視

輪部デルモイドの存在が影響して、強い角膜乱視を生じることがあります。人間はみな生まれたときは視力が未発達の状態ですが、成長しながら物を見る経験を積むことで 6~8歳くらいまでに成人と同レベルまで発達し安定します。
生まれつきデルモイドがあると角膜乱視の影響で、見たものの像をきれいに網膜にとどけることができず、そのまま放置すると視力が未発達のまま成長する弱視の状態になってしまいます。眼鏡での矯正、場合によってはアイパッチでよく見えている方の眼を遮へいするなど、弱視治療を行う必要があります。角膜移植によっても角膜乱視は軽減するため、角膜乱視の程度が強い場合には、手術の時期を早めに検討します。

(2)整容面の問題

デルモイドは目立つ位置にあるため、いじめや自己肯定感の低下につながることがないよう、患者さん本人の精神面にも、十分注意してあげる必要があります。視力の問題がなくても、整容上の理由から切除を希望することも多くあります。

デルモイドの治療、「表層角膜移植術」とは?

輪部デルモイド腫瘍をとる治療は、表層角膜移植術という手術になります。角膜移植は臓器移植の一種で、亡くなってから移植医療のために眼球を提供された方の角膜を使用します。手術時期は、小学校に上がる前の5~6歳の時期が多いようです。

ただし、デルモイド腫瘍自体が角膜の中央付近まで及ぶ大きさの場合は、目の中に光が届かなくなり、著しい弱視となる可能性があるので、早期の手術の適応となります。いずれにしても小児期の手術であるため、局所麻酔ではなく、全身麻酔下で手術を行います。

デルモイド腫瘍を円形に除去した後に、円盤状の角膜移植片をのせて縫合します。半年~1年後に角膜を縫合していたナイロン糸の抜糸を行います。移植した部分は、目を凝らしてみると淡く乳白色のにごりを認める程度で、日常生活を過ごすうえではほとんど目立たない程度になります。

手術前のデルモイドの状態

ドーム状にふくらんだ腫瘍で触れるとすこし硬い感触です。表面に毛が生えていることもあります。

表層角膜移植術後の状態

抜糸前なので黒いナイロン糸がありますが、抜糸するとなくなります。腫瘍の部分は平坦になり色調も自然になります。

表層角膜移植術のその後は?

手術直後から抜糸までの間は、目をこすらないようにしてもらう必要があります。抜糸後は、とくに活動の制限はありませんが、必要に応じて眼鏡矯正やアイパッチによる治療を続け、可能な限り最大限の視力を獲得できるように、継続して小児眼科に通院する必要があります。

誕生したばかりの赤ちゃんがデルモイドを持った状態で生まれると、お母さん・お父さんをはじめ患者さんの家族は動揺すると思います。しかしデルモイドは増大したり転移したりするものではなく良性の腫瘍ですので、適切な治療を受けることで、視力の発達も見た目も問題なく過ごせることが多い病気です。

監修・文・写真提供/谷口紫先生 構成/たまひよONLINE編集部

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デルモイドは先天性の腫瘍とのことですが、良性腫瘍で、必要な場合は手術で取り除く治療が行われるとのこと。動揺しすぎることなく、まずは眼科に受診して相談してみましょう。

谷口紫先生(やぐちゆかり)

PROFILE
眼科医。東京歯科大学市川総合病院眼科 講師として勤務。昭和大学卒業後、慶應義塾大学眼科学教室に入局。角膜移植に魅了され現在の職場に至る。2児の母で育児と仕事の両立のために日々奮闘中。

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