「もう釣りに行くこともできない…」パリ五輪サーフィン開催地の地元住民から不安の声。米メディアも懸念「五輪が街にやってくることは祝福でもあり、呪いでもある」

パリ五輪開催まで156日(2月21日現在)。

東京五輪で初めて正式種目に選ばれたサーフィンの開催地は、フランス・パリではなく、パリから約1万5700キロ離れた南太平洋に位置する、フランス領ポリネシア・タヒチ島南部のチョープーだ。

タヒチ島南部のチョープーは、400m沖合の場所で、美しい筒状のチューブが炸裂する、世界で最も有名なリーフブレーク(サーフポイントが岩やサンゴ礁のこと)とも言われ、ビッグウェーブが訪れると上級者でも恐怖に陥るほどの"最恐の波"で知られている。

タヒチ観光局の公式サイトには「世界最大の海洋保護区があります。…クジラ、ウミガメ、エイ、そして2006年から保護されている20種以上のサメなど、さまざまな保護種の天国であり、海洋生物の多様性のバランスに不可欠な場所です」と記されており、続けて「1996年から糸釣り以外の漁具・漁法の使用を禁止しており、排他的経済水域(EEZ)はポリネシア漁船団のために確保されています。フランス領ポリネシア以外には漁業免許は販売されておらず、産業漁業も厳しく禁止されています」と、世界で最も有名なリーフブレークや自然環境の豊かさだけでなく、生態系の保護にも早くから力を注いできた島だ。

また、『AP通信』はチョープーについて「サーフィンの世界では有名な場所だが、チョープーにはサーフショップが1軒もなく、人気のサーフスポットにありがちな開発もほとんど行なわれていない」と綴られており、ありのままの豊かな自然の中で静かに暮らす街の様子が想像できる。

そんなタヒチ・チョープーでのサーフィン開催で、試合時に審判員などが使用する予定のタワーの建設を巡って、地元住民から反発の声があがっている。

1964年創刊のアメリカの老舗サーフィン専門誌『SURFER MAGAZINE』は2月20日、「オリンピックのサーフィンはタヒチに壊滅的な被害をもたらすのか?」というタイトルの記事を配信。冒頭で「オリンピックには、開催都市を荒廃させるという悪名高い歴史がある。環境破壊から住民の移住まで、オリンピックが街にやってくることは祝福であり、呪いでもある。一方では、経済的なチャンスでもある。一方では、オリンピックをきっかけに取り返しのつかないダメージを受ける可能性もある」と綴り、五輪開催は開催地に様々な変化や被害をもたらし得ると言及している。
前出の『SURFER MAGAZINE』は、タヒチのチョープーは「世界屈指の難易度を誇るサーフスポットであり、視聴者に十分なエンターテインメントを提供することは間違いない」と高く評価し、期待も寄せつつも、しかし「2024年パリ大会が近づくにつれ、大会の準備が、サーフィンと漁業の盛んなこの田舎町の環境に悪影響を及ぼしている」と指摘した。

チョープーについて、住民は「この波はとても特別なものです」と語り、続けて「もう1年近くも毎日、毎日、彼らは川を掘って、掘って、掘り続けている。なぜなのかわからない。私たちの水は汚れていて、もう釣りに行くこともできない。とても汚いんです」とサーフィン開催に伴い、準備を進める過程で既に、自然環境やチョープーに住む人々の生活に被害が出始めていることを告白した。

また同メディアはチョープーでの五輪開催で物議を醸している主な原因のひとつとして「波に面したリーフに設置される予定の新しい審判塔」を挙げ、「アルミ製の巨大なもので、設置はすでにリーフの生態系にダメージを与えている」と指摘し、続けて、環境活動家のシンディ・オトセナセックも「バージ(川や運河で砂利やごみなどを運ぶ平底船)を使った最初のテストでは、サンゴの一帯が壊れてしまった。パリ2024はオリンピックを開催するためにサンゴを犠牲にしたのだ。このタワーの建設に携わった科学者で、この建設が波に影響を与えないと断言できる者はいない」と、審判塔の建設でサンゴの一部を破壊した事実を述べている。

タワー建設でサンゴの一部を破壊した事実について、『AP通信』は、パリオリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のシニアイベントマネージャーであるバーバラ・マーティンス・ニオ氏の「私たちにとってはひどい出来事でした」とのコメントを紹介した上で、同メディアは「地元団体との交流は現在改善されつつあり、組織チームはいくつかの問題について一歩後退し、建設作業が完全に透明化されるよう、地元団体をよりよく巻き込んでいる」と綴り、解決に向けて進んでいることを伝えている。

米老舗サーフィン専門誌『SURFER MAGAZINE』は記事の最後に「オリンピックの主催者側は、地元住民や活動家たちの環境問題への懸念に耳を傾けている。審判塔は縮小された。しかし、それでも彼らは前進を続けている。そしてすべてが終わったとき、パリ2024がチョープーに与えるダメージはまだわからない」と警鐘を鳴らし、「環境はとても壊れやすい。もしそうでなければ、私たちはすべてを失うでしょう。すべてをね」と締めくくり、パリ五輪の開催地のチョープーで起きている現状について伝えた。

現在、五輪側は住民からの反発の声を受けて、審判塔の規模を縮小する方向で進めている。しかし、環境保護活動家や地元の漁師たちからは、審判塔の建設時に行う、サンゴ礁への掘削がシガテラ(天然毒。渦鞭毛藻と呼ばれる微細藻の一種を魚介類が食べ、食物連鎖によって魚の毒化が起こるー引用元:沖縄県庁公式サイト)を呼び寄せるのではないかとも言われている。

もしリーフに亀裂が入れば、"世界で最も有名"と言われたリーフブレークが失われる可能性も否定はできない。五輪開催で揺れるチョープー、今後の動向にも注目していきたい。

構成●THE DIGEST編集部

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