夫婦殺人放火事件、見えない本心 当時19歳、更生ではなく極刑に 少年法改正、全国初の特定少年事件

特定少年に対する初の死刑判決を伝える山梨日日新聞の1月19日付の朝刊紙面

 裁判長が判決の読み上げを始めた。証言台の椅子に座った被告の表情は見えない。髪が伸びた丸刈り頭は幼さをうかがわせた。

 今年1月18日、甲府地裁の判決公判。裁判長は、通常は冒頭でする主文の言い渡しを、後回しにした。多くの場合、先に重い刑を伝えると被告が動揺してしまい、その刑に至った理由の説明が頭に入らないためとされる。

 バタバタバタ。「主文の後回し」が分かると、傍聴席の記者が次々と立ち上がり、速報をしようと法廷から出ていく。「特定少年」に対する極刑が近づいていた。

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 事件は、2021年10月12日未明、甲府市の住宅街で起きた。法廷で裁判長の言葉を聞く遠藤裕喜被告(21)は、当時19歳。同じ高校に通っていた女性に思いを寄せ、交際を断られたことから女性の両親を刃物で刺すなどして殺害し、妹にけがを負わせ、家に火を付けて全焼させたとされる。起訴内容は、判決でほぼそのまま認定された。

 この事件が全国的に注目されたのは、被告が19歳だったためだ。約半年後の22年4月1日、少年法が改正され、18、19歳を「特定少年」として成人に準じる扱いが始まった。少年法はそれまで、20歳未満の少年の氏名や年齢、住所などの情報や写真の報道を禁じてきたが、特定少年に限り、起訴段階で解禁された。

 遠藤被告が起訴されたのは、改正法施行から7日後の4月8日。検察が「少年」の実名を公表した全国第1号の事件だった。

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 「犯行当時19歳であったことを考慮しても、死刑を回避すべき決定的事情とはいえない」。判決の理由を読み上げる途中でも、結論をうかがわせる部分はあったが、被告に動揺する様子はなかった。開廷から40分余り。死刑が言い渡された。

 18歳や19歳の特定少年は、現在でも更生(立ち直り)が重視される少年法の対象に位置付けられ、成人との境界があいまいだ。

 戦後ほぼ不変だった少年法を改正する契機となった1997年の神戸連続児童殺傷事件では、当時14歳の少年が逮捕された。小学生5人を次々に襲い、2人を殺害した「少年A」に対し、神戸家裁は医療少年院送致の保護処分を決めた。元「少年A」の男性は、05年に社会復帰し、今は41歳になった。

 一方、現在21歳の遠藤被告。市民が入った裁判員裁判で成人と同様に刑法によって裁かれ、極刑が下された。今月には、被告本人が弁護士の控訴を取り下げ、死刑が確定した。(霍見真一郎)

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