“保存10年OK”の飲料水…被災者の命守る 兵庫・福崎町のメーカー、独自アルミボトルで生産供給

年に2回製造される備蓄水。消毒を終えて箱詰めされる=福崎町西治

 元日に発生した能登半島地震による断水を受け、水を備蓄する大切さがあらためて認識される中、10年もの長期保存が利く備蓄用飲料水を供給する兵庫県福崎町のメーカーが存在感を示している。光や空気を通しにくいアルミボトルを使っており、年間生産量は約100万本に上る。壁にぶつかりながらも開発を続けた背景には、阪神・淡路大震災の被害を目の当たりにした社長の決意があった。(喜田美咲)

 福崎町西治の「大円食品工業」。1月下旬、同社の工場を訪ねると「TheLifeWater(ザ・ライフウオーター)」と記されたアルミボトルが生産ラインを流れていた。

 使っているのは福崎町の水道水。純水にして加熱殺菌するほか、酸化が起きないようボトルに窒素も入れて密封するなど、さまざまな工程を経て作られる。

 昨年、生活雑貨店「無印良品」が展開する防災グッズシリーズに採用された。アルミボトルはペットボトルと比べて「リサイクル率」が高い特長があるほか、ボトルのシンプルなデザインは暮らしに溶け込む。

 各自治体の水道水を加工して独自ボトルに詰め、ご当地の備蓄飲料水として出荷する。2003年の大阪府を皮切りにこれまで約50に上る全国の自治体から請け負い、県内では兵庫県や尼崎市、加古川市、高砂市のものを手がけた。5千本という小ロットから注文を受けている。

 同社によると、アルミボトル入り備蓄飲料水を製造するのは、同社を含めて国内に2社のみという。

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 1977年に福崎工業団地で創業した同社は、栄養ドリンクの製造をスタートに、大手飲料メーカーから受託しながら幅広い飲料を手がけてきた。

 備蓄飲料水の生産を始めたきっかけは、29年前の阪神・淡路大震災だ。揺れによる被害は受けなかったが、物流がまひしたため、原料や資材が届かなくなった。前年に行った設備投資の負債がのしかかる中で生産ラインが止まり「もう終わりやと思った」と藤本栄一郎社長(74)は振り返る。

 倒産の危機にひんしながら社員たちと取り組んだのが、避難生活を送る人たちに栄養ドリンクを届けることだった。「最後にええことしよう」と工場に残る原料と瓶をかき集めて生産し「私たちの街、私たちの力」「がんばれ!!」という文言のラベルを瓶に貼った。

 物流網が回復し、会社が持ち直すと藤本社長は飲料メーカーとして地域に貢献できる事業を模索。「被災後にはまず水が必要だった」という神戸の親戚の言葉を参考にして、備蓄飲料水の開発に乗り出した。

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 いかに香りを水へ移さないか-。

 所有する唯一の設備を使ってジュースなどと水を生産する上では、香りが移ることが「壁」となったため、洗浄の技術を研究。製造を止めて収益にも響いたが、従業員が一丸となって手法を築いた。

 現在はジュースなどの需要が高まる夏場を避け、年に2回、備蓄水の生産期間を設定。期間前には3日かけて洗浄しているという。

 当初は品質保証期間を5年間としたが、10年たっても容器や中身の品質に問題が無いことが分かり、期限を延ばした。自治体から請け負うご当地備蓄水に続いて企業からも引き合いがあったため、15年ごろからザ・ライフウオーターの生産に乗り出した。

 能登半島地震で被災した七つの自治体には、1200本ずつを寄贈した。藤本社長は「29年前に神戸の被災地で支援活動にあたる従業員を見て、もっといい会社になると確信した。今後も誰かのために挑戦を続ける会社でありたい」と話している。ザ・ライフウオーターは1本490ミリリットル入りで180円(希望小売価格)。アマゾンや楽天などネット通販でも売っている。

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