“デカくて動ける”190センチのCB。ブレイク必至の大津・五嶋夏生はあふれる涙をこらえ切れず「勝たせられるキャプテンになりたい」

190センチのサイズが一際目をひく。先の高校サッカー選手権では78キロで登録されていたが、間近で見てみると、それ以上に身体の厚みを感じる。1年生の頃から課題としていたフットワークも大幅に改善され、足の運び方は以前よりもスムーズになった。

新チームが発足して約1か月。大津の新主将に任命されたCB五嶋夏生(2年)が高校ラストイヤーに向け、順調なスタートを切っている。

2月17日から20日まで鹿児島県で開催された九州高等学校(U-17)サッカー大会では、守備の柱として6試合にフル出場。空中戦と1対1の局面で力を示すだけではなく、強烈なリーダーシップでも抜群の存在感を誇示した。

20日の決勝では神村学園に0-1で敗れたものの、試合を通じて安定したパフォーマンスを発揮。ゴールを奪われた場面以外はほとんど決定機を作らせておらず、球際の強さで相手を凌駕したプレーからは、九州だけではなく、全国トップクラスの力を持っていることを感じさせた。

九州大会のプレーを見る限り、Jクラブのスカウトから注目されても不思議ではない。だが、試合後の五嶋は涙にくれていた。

最初は冷静に言葉を紡いでいたのだが、徐々に感情があらわに。溢れる涙をこらえ切れず、悔しさが次から次に込み上げてきた。

「キャプテンとして人一倍やらないといけない。自分がやらないと、周りはついてこないと思うので、そういう意識を持って取り組んでいるけど、キャプテンとしてはまだまだ...。大津は負けてはいけないチームだと思うので、勝たせられるキャプテンになりたい」

九州大会であっても悔しさに変わりはない。一つひとつの敗戦から学び、自分に矢印を向けられるのも五嶋の強み。そうしたメンタリティがあったからこそ、高卒でJクラブ入りを目ざせる選手に成長を遂げた。

ブレイズ熊本から大津にやってきた大型CBは、入学当初から注目を集め、入学式が行なわれる前の3月下旬に開催されたサニックス杯からトップチームに帯同。平岡和徳総監督から「面白い1年生がいる」と評され、4月に開幕したU-18高円宮杯プレミアリーグでも出場機会を掴んだ。

ただ、この頃は期待値込みの起用。サイズに恵まれていた一方でフィジカルが足りず、当たり負けする場面が多く、フットワークにも課題を残していた。

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身体能力を鍛える作業は簡単ではなく、時間がかかるのは自明の理。徐々に出番を失い、夏以降は1年生チームでプレーする時間も増えた。

ただ、この経験が今に生きている。同級生たちとプレーする機会がリーダーシップを育んだのだ。元々、口数が多いタイプではなく、朴訥なところもあったのだが、先頭に立ってチームを引っ張った経験が責任感を芽生えさせた。

そして、プレー面でも課題と向き合った。トップチームで通用しなかったフィジカルを徹底的に鍛え上げ、フットワークや筋力を強化して“デカくて動ける”CBに。「積極的に取り組んだので、ちょっとずつだけど、成長できている実感がある」と本人も手応えを口にするほど、見違えるように逞しくなった。

昨季はレギュラーとしてプレーし、プレミアリーグだけではなく、インターハイや選手権も経験。DFとして多くの舞台で戦い、ひりつくような展開を味わえた。その財産は何事にも代え難く、今季を戦ううえでプラスになったのは間違いない。

今季の高校サッカー界において、目玉のひとりになる可能性は十分にある。「九州大会が最後ではない。自分たちの最終的な目標は全国制覇すること。この目標を常に掲げ、経験を次に繋げるしかない」と言い切った注目株は敗戦の悔しさを糧にし、世代別代表や高卒でのプロ入りを目ざして研鑽を積む。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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