論より昇給

 小話にある。「今年の給与は50%アップだぞ」「昨年比ですか?」「いや、来年比だ」。やけに遠回しだが、来年は今年よりも大幅ダウンだ、と言っている▲小話ほどではないが、昨年よりも今年、今年よりも来年と、給与グラフが上昇カーブを描かないのが、日本のこの30年だった。右肩上がりの海外と横ばいの日本とは、当然ながら差が開く▲グラフが上向く兆しかどうか。引き上げ額は4万円~5万円台というから目を丸くする。十八親和銀行(長崎市)を含む九州のほとんどの地銀が2025年4月から初任給を引き上げ、26万円に足並みをそろえる▲メガバンクは先に、今春から引き上げる。地銀は採用難にあり、ふくおかフィナンシャルグループの傘下の銀行が肩を並べた。ほかの地銀もそれに続く。いや、続かざるを得ない▲九州では人材不足が特に深刻という。多くの企業が原材料費など経費の上昇に悩みつつ、なんとか初任給も引き上げる。人材を引き寄せる窮余の策だろう▲日経平均株価が約34年ぶりに史上最高値をつけた。円安で輸出企業などが業績を伸ばしたためというが、まるで縁遠い中小企業も多い。井上ひさしさん考案の「いろはかるた」の「ろ」の項は〈論より昇給〉。あれこれ論じるより、まずは昇給か…。企業のぼやきにも読める。(徹)

© 株式会社長崎新聞社