テレビの演芸番組「笑点」でおなじみの落語家、林家たい平さん(59)が今月中旬、独演会のため長崎県東彼波佐見町を訪れた。大入りの会場は笑いの中で幕を閉じたが、たい平さんは翌日も、そのまた翌日も町内に残り、通い慣れたある場所に向かった。折敷瀬郷の窯元、西山(太田聖社長)。そこで焼き物の染め付け作業に没頭していた。「ここにいると、いろんな発想が浮かんでくる」。たい平さんにとって波佐見は充電の場所なのだそうだ。
西山との出合いは30年ほど前にさかのぼる。武蔵野美術大(東京)で視覚伝達デザインを学び、卒業後、故・林家こん平師匠に入門。駆け出しのころ、東京の陶磁器卸問屋から声がかかり、社長の誕生日会で落語を披露した。そのお礼として誘われた波佐見・有田への旅で、人生初の染め付けを体験したのが西山だった。
足が遠のいた時期もあったが、数年前から毎年のように訪問。昨年6月には銀座の百貨店で初の大がかりな個展を開き、波佐見焼のPRにも一役買った。
コーヒーやスープを飲みほすと底に笑顔が現れるカップや、「あみだくじ」をあしらった大皿など、遊び心のあるデザインも並んだ。「落語は日常の中の笑い。波佐見焼は日常使いの器。どちらも人の心を楽しく和ませる」。落語や創作の根底にあるのは“人を笑顔に”だ。
作業場で器と向き合うたい平さんは、明るくパワフルな「笑点」とは違って真剣な表情。「目の前にいる(焼き物の)先輩たちを見ると、響き合うものがある。素焼きの器だけ東京に持ち帰っても、たくさん描けない」。2日間、午前8時から午後5時まで、みっちりと作業した。「笑顔や感動、喜びを伝えるには、自分自身の中にそれらが充満してないと。波佐見の時間で充電できた」
海のない埼玉県秩父市出身。長崎空港から波佐見に向かう車窓から見える大村湾の景色が気に入っている。「波佐見からご縁をいただいた。年に1回でも独演会を開くとか、未来を支える子どもたちとも交流できたら」
「『波佐見焼』でお願いできますでしょうか…」。取材の最後、無理を承知で謎かけをお願いしてみた。たい平さんは「ちょっと難しいな」と苦笑いしつつ、数秒後に「『波佐見焼』とかけて『すてきな人になる』と解く。その心は『器が肝心』」と返ってきた。ありがとうございました。
「たい平の波佐見焼展」は東京・羽田空港第2ターミナル1階「和蔵場(わくらば)」で3月9日から11日まで。