「ネガティブなことは一切ない」藤枝MYFC須藤大輔監督 人の心を掴む熱量の源

「今シーズンの目標は、周りが何と言おうと我々はJ1昇格を目指していきます」

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2024シーズン、新体制発表会でこう高らかに宣言したのが、須藤大輔(46)。サッカーJ2藤枝MYFCの監督として、4季目を迎える。

現役時代は、FWとして水戸ホーリーホックでデビューし、湘南ベルマーレ、ヴァンフォーレ甲府、ヴィッセル神戸でプレー。2010年、藤枝を最後に現役を引退。

2021年、今度は指揮官として古巣に舞い戻ると「超攻撃的エンターテインメントサッカー」をキーワードに見るものを楽しませるサッカーを披露。翌2022シーズンには、クラブを史上初のJ2へと押し上げ、群雄割拠の“戦国リーグ”の中で、12位という結果へ導いた。

指揮官・須藤大輔を知る者は、彼のイメージに対し、まず最初にこの言葉がでてくる。

「とにかく熱い」
「熱」
「情熱」

副キャプテンのDF川島將は「感情的になることもあるけれども、すごい熱く、自分たち選手にも直に、ダイレクトに伝わってくる」と指揮官に絶対的な信頼を寄せる。

須藤の“熱量”を感じさせる場面があった。

「選手のために泣ける監督」

2023年5月のモンテディオ山形戦。キャプテン・杉田真彦がプレー中、靭帯断裂の大けがを負い、残りのシーズンに出場することができなくなった。

杉田は、そのときの監督の言葉が今でも心に残っている。
「自分が1人でロッカーにいたとき、みんな帰ってきて、須藤さんが泣いてくれた。『こいつをJ1に連れて行くぞ』とみんなの前で熱く言ってくれた」

「けがをしたのは(重要な)清水戦の前。(杉田は)ハーフタイム、泣きじゃくっていた。あれはいまでも鮮明に覚えている。選手にとってやりたい試合っていうのは、必ずあるわけで、そこにすら立てないっていう状況になってしまったので、自然とそういう言葉が出たかなと」

「選手のために泣ける監督なんて初めて。本当に感動したし、大事な試合に自分は出れないが、本当にチームを応援しようという気にも、すぐそのときになれた」。杉田は長いリハビリを乗り越え、今シーズン、再びキャプテンマークを腕に巻く。

須藤の選手を想う熱い気持ちが信頼へとつながり、藤枝MYFCの原動力となっている。

「めっちゃポジティブ」(河上将平)
「とにかく選手のストロングな部分を見てくれる」(久富良輔)
「みなぎった自信っていうのが、若い選手やチームに活気を与えている」(水野泰輔)

「狙いはオッケー。狙ったミスとそうじゃないミスは、明らかに違う」

トレーニング中に何度も飛び出すそのポジティブな言動は、須藤自身の経験からきている。

「ミスとかは絶対責めないけども、やらなくなるとか、諦めるとか、つらいから人任せにするとか、そこはもう怒る。怒るっていうかもう、暴れる。自分も選手時代、少しネガティブなプレーや自信を失ったとき、もうサッカーしたくないというときもあった。そういうのは選手には感じてもらいたくないっていうのが一番にある」

2021年、藤枝の監督に就任してからの最初のミーティングで、須藤が流した動画が、選手たちの心を掴んだ。

「自分を表現しろ」

「『This Is Me』。自分を表現しろ、みたいな感じの映像だった。覚えている。印象に残っている」(河上将平)
「グレイテスト・ショーマン。映像とかを使って、奮い立たせるのがうまいなとは思った」(杉田真彦)

「グレイテスト・ショーマンが今の藤枝のサッカーの核になっている」

『グレイテスト・ショーマン』とは、失敗を繰り返しながらも、決してくじけない主人公が個性を持ったエンターテイナーを集め、型破りなショーで人々を驚かせるミュージカル映画。須藤はこのメイキング映像を選んだ。

「我々、藤枝MYFCは、もしかしたら、雑草とか、ちょっと挫折が多いっていう選手が集まってきている集団だった。でも、その中には、ストロングの部分ですごいものを持っていて、でも、ちょっと自分に自信なさげな選手たちがいて、そんなときに『This Is Me』というメイキング映像を流して、『いや、違うんだよ』と。自分は、自分で輝ける場所があるんだから、そこで輝こうぜっていうのが、藤枝のサッカーの根本にある」

1本の映像は選手の心を動かしていく。
「チャレンジしようと。(これまでは)ミスしないように、ミスしないようにと安パイなプレーをいままでしていたが、『自分を表現したい』と強気な気持ちになった」と河上。地元・藤枝出身の鈴木翔太は「もちろん、ウイークはあるが、それよりもまずはしっかり自分のストロングの部分を出して、臆することなく、いまでも意識しながらやっている」と前を向く。

常にポジティブな言葉で、選手たちを奮い立たせる須藤だが、決して順風満帆なサッカー人生ではなかった。神奈川・桐光学園高3年生で靭帯損傷のけがを負い、東海大学でサッカーを続けるも、プロからのオファーはなし。多くのセレクションを受け、ようやくプロサッカー選手になった苦労人だ。

「やっぱり、挫折のときにやり続けたことが、いま、1個1個つながってる。大きくジャンプするために1回しゃがんでるんだと捉えられるようになったので、いまは『ネガティブなことは一切ないのです、この世の中には』っていう思考」

“非日常空間が味わえるようなシアター”

監督・須藤大輔が最も熱くなる場所、藤枝総合運動公園サッカー場。2024シーズン開幕を前に、バックスタンドが増設され、1万人以上の観客が収容可能となった。クラブは「#集え1万人のなかまたち」と銘打ち、“蹴球都市”自慢のスタジアムを藤色に染め上げるつもりだ。

「非日常空間が味わえるようなシアターが出来上がった。(スタジアムに駆けつけてくれる)サポーターは自分の熱を増幅させてくれる存在であり、苦しい時も、楽しい時も、うれしい時も悲しい時も、一緒に過ごしてくれる最大の仲間。我々チームとサポーターが一体となって、このスタジアムを歓喜の渦に沸かせたい」

2月24日の開幕戦の相手は、昨シーズン・ホームでは、勝利をあげながら、アウェーで完敗を喫したV・ファーレン長崎。須藤大輔は、誓う。

「何度、踏まれ続けても、打ちのめされても諦めない。自分の限界値の限界を超えていく。それが私の“This Is Me”」

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