【2024問題 福島県内の現場から】運送業 運賃値上げ交渉道半ば 経営守る「唯一の打開策」

 働き方改革関連法施行に伴い4月からトラック運転手が不足し輸送力低下が懸念される「2024年問題」。運転手確保や経営維持のために福島県内の運送業者は発注側の荷主と運賃値上げ交渉を進めるが、道半ばだ。運転手の時間外労働時間の上限が年960時間になり、1人当たりの業務量が限られて事業者の収益が減る恐れがある。人材確保が依然として進まない中、事業者は運賃値上げが唯一の打開策とみているが、施行まで1カ月余りに迫った現在でも値上げが実現した例は限られる。事業者からは「日本の物流網を維持できるかの正念場だ」との声が上がる。

■減益

 「現在の仕事量の1割超に影響が出る」。二本松市にある運送業・福島倉庫の蓬田隆信社長は、倉庫前で労働時間規制強化の影響を心配する。運転手の運行距離を1日500キロまでに制限する方針だ。これによって、規定距離を超える関東より遠方への輸送は現在より日数がかかり、経費もかさむ。減益は避けられないと語る。

 これまで荷物を運ぶのに日帰りできた場合でも、4月からは、距離によっては2日以上かかる可能性がある。事業者は収益を維持するためには受注する仕事量を増やし、運転手を確保する必要があるが、運転手も高齢化している。

 県内業界は2024年問題に備え、数年前から地域の会社合同で就職説明会などを開催してきたが、思うように若い世代の確保は進んでいない。県内運送業の有効求人倍率は2.0倍近い状況が続き、他の業界との人材獲得競争が激しく、人手不足は今すぐに解決する見通しはない。

■限界

 事業者は業務を首都圏向けから県内向けに切り替えて輸送規模や行程を見直し、事業者同士の共同配送なども進めている。ただ、業務の効率化だけでは限界がある。経営維持のためには、これまでの運賃に燃料高騰分や高速道路料金を上乗せできるかが鍵になる。事業者は、部品製造や食品メーカーなどの荷主と交渉を進める。

 福島県トラック協会が今年度初めて会員企業に実施したアンケートで、荷主との交渉で「20%の値上げ希望に対して3~5%の値上げ(にとどまった)」「(荷主は)理解を示すが結果は保留」などの厳しい回答が並ぶ。「交渉すれば仕事を他の会社に取られる」と交渉を断念する例もあるという。

 30年近く続いてきた激しい競争で低運賃が習慣化しているのが背景にある。荷主もコロナ禍の影響で経営状況は回復していない。アンケートで「業界の厳しい環境を理解してもらえた」などの回答もあるが、一部にとどまる。事業継続を断念する事業者も出始めているという。県内のある事業者は「県内は中小企業が大半。立場が弱い面があり、交渉が進んでいない」と切実な状況を訴える。

■支援強化

 物流の「2024年問題」で、政府は中長期計画で2024(令和6)年度の運転手の賃金を10%程度引き上げを目指すと明記した。ただ、県内の運送業者からは「業界の努力だけでは不可能だ。理解醸成に向けた取り組みを強化してほしい」との声が上がる。

 国土交通省が目安として定めている適正運賃の見直しなどで実現を図るとしているが、県内のある事業者は「業界や荷主に丸投げでは実現しない」と冷ややかだ。運賃値上げを後押しするような補助金の交付など強力な仕組みが必要だと訴えた。

 県トラック協会の田母神正広専務は低運賃によって、これまで物流を支えてきた業界の自助努力は限界を迎えていると強調する。「(運賃値上げの)地域全体の理解情勢はまだ5合目にも至っていない。物流網という血管を絶やさないため、(規制が始まる)4月は完了でなく、理解を広めるスタートラインとなる」とし、国のさらなる支援を求めている。

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