前田敦子、“不動のセンター”から頼りがいのある親友役へ 『厨房のありす』和紗の心強さ

「倖生が好き?」
「はい!」
「ほんとに?」
「はい!! 行ってきます!!」
「待てって! ……いいか、よく聞け? 恋は、駆け引きだ」

思わず、「あ、姉御~!!」と言って拍手したくなるほど『厨房のありす』(日本テレビ系)の和紗(前田敦子)は頼りがいがあってかっこいい。ありす(門脇麦)と和紗のやりとりはいつもコミカルだが、ありすがいつもよりありすらしくて、よりかわいらしく見えるのが特徴的だ。前田敦子演じる和紗の存在はありすにとっても、この作品にとってもなくてはならないものだ。

和紗はありすの幼なじみ。2人の息子の母でもあり、現在、第3子を妊娠中。「ありすのお勝手」のホール係として、ひとりで接客を担当していたが、出産に合わせて代わりのバイトを募集していた。そこに倖生がやってきたので、仕事とありすとの接し方を指導中だ。心根は優しいが、気もケンカも強い、地元では有名な最強の元ヤンで、小さい頃からその拳でありすをいじめから守り抜いてきた。

前田が誰かの親友役を演じると、他には真似できない不思議な魅力が際立つ。相手を引き立てつつ、自らも輝かせることができるのだ。映画『そばかす』(2022年)では、他人に恋愛感情を抱いたことがない佳純(三浦透子)の親友・真帆を演じている前田。恋愛にも結婚にも興味がないという佳純の感覚は、娘に早く結婚して欲しいと願う母や妊娠中の妹には理解してもらえないが、真帆は否定することなくその価値観に寄り添ってくれる。その姿が佳純に心の安寧をもたらしてくれていて、佳純は真帆がそばに居ると穏やかな笑顔を見せるのだ。

だが、真帆にも抱えているわだかまりがあるようで、佳純はある時、街頭で男に怒鳴り散らす真帆の姿を目撃する。その姿はいつものように正論を言っているのだが、冷静さに欠け、激情を抑えられないでいた。佳純の親友という脇役的な存在だった真帆について「真帆はどういう人間なのだろう?」と、注目を集める存在感を放っていた。

『かしましめし』(2023年/テレビ東京系)で前田演じた千春は、勤めていた会社でパワハラを受け、心を病んでいたが、同じく人生に悩んでいるナカムラ(成海璃子)や英治(塩野瑛久)と食べる「おうちごはん」を楽しみながら、ゆっくりと緩やかに自分らしさを取り戻していった。千春は時には、2人の親友として相談にのることもあり、この作品の主人公は千春だが、ナカムラと英治の3人で互いを温かい優しさで包みあっていた。

いまだにAKB48の元メンバーで不動のセンターであった”あっちゃん“のイメージも強い前田だが、このように華やかでなく普通で、温かく優しいが意志の強い人を印象的に演じられる俳優へと変化していっている。きっと『厨房のありす』をはじめとして、彼女の演技を見た時に「イメージと違う」と驚いた人もいたのではないだろうか。

倖生と出会ってからのありすは、自分の出生についてや好きになることなどに悩み、機嫌がいい日もそうでもない日もできて、以前よりもさらに感情豊かに毎日を楽しんでいるようだ。そんなありすの成長を1番喜んでるのは和紗かもしれない。ありすに恋の駆け引きを提案する和紗の顔はなんだか嬉しそうだった。ありすの倖生への気持ちは急加速中だ。和紗にはありすを見守りつつ、ぜひストッパーとして頑張ってもらいたい。
(文=久保田ひかる)

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