「働き方変革を」「私生活大切に」ジェンダーと仕事、男性目線で考える 灘中学・高校教諭と兵庫県立大准教授が対談

竹端寛さん(左)と片田孫朝日さん

 夫婦間でけんかの火種になる家事や育児の分担。結婚、出産後も男女が格差なく働くために必要なことは-。灘中学・高校の片田孫(かただそん)朝日教諭(47)と兵庫県立大環境人間学部の竹端寛准教授(49)が、男性の視点からジェンダー問題について考えるトークイベントが同県明石市内であった。識者2人は、幼少期の家庭環境や育児経験などの実体験を基に聴衆へ課題や疑問を語った。「午後8時の帰宅はやめてほしい」「妻の方が賃金が高いことをどう捉える?」「長時間残業、単身赴任、いつまでやるの?」(まとめ・谷川直生)

 女性の活躍を後押しする「あかし女性応援ねっと」とウィズあかしが主催した「あかし女性応援メッセ」の一環。トークイベントは「生き方は自分で選ぶ~ジェンダーを男性の視点から考える~」と題して行われ、女性を中心に約50人が耳を傾けた。その後、参加者らとテーブルを囲み、日頃抱える本音を出し合った。

■期限切れの働き方変革を 兵庫県立大准教授の竹端寛さん

 大学院を修了した後、教員としての就職先がなかなか決まらなかった。仕事をしていた妻の方が稼ぎがあることに納得できない自分がいた。今思えば、それ自体が男性中心主義的な考え方。男女平等がいいと思う人の中にも、そう感じてしまう人は案外いるのでは。

 男女が同じように働き続けるためには、育児や介護などの「ケア」のあり方を変えなければならない。ケアは「ままならぬものに巻き込まれること」という考え方もある。自己決定や自己選択、能動性を行使できる労働とは真逆にあり、男性が仕事をできているのは女性にケアを押しつけてきたからだ。

 育児を経験して分かったが、本を読む時間も出張に行く時間も取りにくい。子どもと妻が風邪をひいて出張に行けなくなったこともあった。これは自立的で能動的な社会人としてはアウト。そんな働き方をしている男性はこのままでいいのかと問いかけたい。

 長時間残業や単身赴任をするのも日本だけ。かつては結婚や出産を機に退職する女性が多かったが、今は退職しない人が増えた。なのに長時間残業、単身赴任はいまだにある。期限切れの働き方としか言えない。

 今、社会のあり方が問われている。働き方とパートナーとの関係性の変革が必要だ。

【たけばた・ひろし】大阪大人間科学部、同大学院修了。博士(人間科学)。福祉社会学の専門家として「あかしインクルーシブ条例」の制定に携わった。主な著書に「ケアしケアされ、生きていく」(ちくまプリマ-新書)など。

■私生活を大切にする国に 灘中学・高校教諭の片田孫朝日さん

 労働組合職員の父と中学校教員の母の間に生まれた。父はほぼ無給の時期があり、精神的にも金銭的にも家庭の中心は母だった。だから男性が稼ぐのが当たり前という考え方には、ずっと疑問を持ってきた。

 普段から授業が終われば、午後4時ごろには帰宅する。もうすぐ4歳になる娘と一緒に買い物に行き、夕食を作るのは私の役目。

 妻は残業で帰宅が8時を過ぎることもある。家で子どもと待っている身としてはちょっと遅い、やめてほしいなと思う。日本の多くの女性がたくさんのことを我慢して生活してきたことがよく分かる。

 女性が家事も育児も仕事もしようと思えば、半分は男性がする必要がある。そのためには、仕事から帰る時間をもっと変えないといけない。

 近年の調査では、余暇よりも仕事に力を入れたいと考える「仕事志向」の男性が減少している。灘高でも忙しそうな父のようになりたいと思わない生徒が増えているという実感。私生活を大切にする国、社会にならないといけない。若い人たちは精神的な準備ができている。

【かただ・そん・あさひ】大学で男性学を研究し、社会学の博士号を取得。現在は公民科を担当する。2020年に娘が生まれたのを機に、灘高の男性教員として初めて育休を取った。娘を抱えて教壇に立ったこともある。

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