代替地で北朝鮮にドロー...なでしこJの歯車を狂わせた要因は? 目に見える不安材料は左サイドからの攻撃。ピースを効果的にはめ合わせたい

パリ五輪出場を懸けたアジア最終予選の第1戦目は、なでしこジャパンにとって非常に苦しい戦いになった。

試合は、当初の平壌ではなく、代替地であるサウジアラビアのジッダで行なわれた。日本で調整していたチームに、イングランドで待機していた清水梨紗、林穂之香、長野風花、植木理子が現地合流という変則的なシチュエーションで、池田太監督も難しい準備を強いられたのは確かだろう。

それ以上に北朝鮮が、決勝で日本に負けたアジア競技大会から打って変わり、5-4-1で構える形を取ってきたことは、前半から日本の歯車を狂わせる要因になったかもしれない。明確にブロックを作ってくる相手に対して、4-3-3の日本は長谷川唯を中心にボールは握るものの、前選択のパスや仕掛けで、縦に差し込む攻撃がほとんどできなかった。

逆に北朝鮮は、日本のプレスを逆手に取るようなMFチュ・ヒョシムのロングキックから、1トップのキム・キョンヨンがセンターバックの南萌華と左サイドバックに入った古賀塔子の合間を抜け出せば、ミスパスを奪ってのショートカウンターからMFミョン・ユジョンのミドルシュート、そしてセットプレーで日本のゴールを脅かした。

気候的な条件が厳しかったのは北朝鮮も同じはずだが、前半は守備を固めながら日本の隙を突く狙いが明確だった分、ボールも人も動かして攻めるスタイルの日本よりも、体力面の消耗もセーブしていたように見える。

日本にとって最大のチャンスは41分、相手陣内でのスローインの流れからクロスボールのクリアミスを田中美南が見逃さず、フィニッシュに持ち込んだシーンだ。これは惜しくもGKパク・ジュミに左足一本で防がれてしまった。

後半になると戦況は変わり、北朝鮮が全体を高い位置に上げて、自陣でのポゼッションに注力してロングボールを入れてきた。日本は守備でのプレスもうまくはまらなくなり、攻撃のギアも上がらなくなった。

そうした状況で池田監督は最初に、ドリブラーの中嶋淑乃を左ウイングに入れる。さらにパス能力の高いMF谷川萌々子をキャプテンの熊谷紗希に代えて、攻撃カードである清家貴子と合わせて投入した。

しかし、北朝鮮も本来の司令塔である10番のリ・ハクなど、勝負どころまで溜めていたようなカードを切って、さらに前に迫力を出してきた。中盤のイーブンボールも増えるなかで、北朝鮮のフィジカル的な強さがより発揮される形に。

70分過ぎには日本の左サイドで数的不利を作られたところから、DFリ・ミョングムのクロスをファーから飛び込んだFWキム ・キョンヨンに合わされたシュートがクロスバーを直撃した。このシーンも中央でチュ・ヒョシムがフリーになっており、日本としては運に恵まれたところもある。

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試合をトータルすると、北朝鮮はシュートが7本、日本は3本で、スコアレスドローが妥当な試合ではあったが、より勝点3に近づいたのは北朝鮮だった。

もちろん第1戦は相手のホーム扱いであり、イーブンでホームの第2戦に臨めるという意味では悪くない。ただ、内容面の悪さというのは、数日前まで会場が決まらなかったこと、環境の厳しさなどを差し引いても反省材料として、中3日の試合にネジを撒き直す必要はある。

目に見える不安材料は宮澤ひなた、遠藤純の2枚を欠く左サイドからの攻撃だ。さらに昨年の女子ワールドカップで左の第二チョイスだった猶本光も怪我でいない状況で、アウェーの第1戦は左ウイングにFWの植木理子、左サイドバックにセンターバックが本職の古賀を起用した。

しかし、二人の距離感が遠すぎたり、北朝鮮のロングボールに対して、古賀が中央の守備に追われる分、植木が孤立する時間帯が多かった。途中から左ウイングに単独で仕掛けられる中嶋が入っても、あまり効果を生み出せなかった。

第2戦は涼しい環境で身体は動くはずだが、全体の攻撃を機能させるには、左サイドのピースをうまくはめ合わせる作業は不可欠だろう。

杉田妃和や、遠藤に代わる追加招集の北川ひかる、第1戦は途中出場だった中嶋など選択肢はあるが、北朝鮮も引き続きロングボールを狙ってくることを想定すれば、守備のリスクにも向き合っていく必要がある。

とにかく負ければパリ五輪の扉が閉ざされてしまう大一番で、どんな形でもゴールをもぎ取って、国立の地で勝利を掴むことを期待するしかない。

文●河治良幸

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