「防げたシーンはたくさんあった」鈴木彩艶は猛批判を浴びたアジアカップで何を感じていたのか。前を向く守護神が“3週間後の本音”を明かした【現地発】

STVVにとって2月24日のウェステルロー戦は、クラブ創設100周年を祝う場でもあった。シント・トロイデンの中心街からスタジアムまで、ファンと市民が一緒になって行進し、スタイエン・スタディオンを華やかに盛り上げた。結果は1−0の勝利。サポーターたちは夜遅くまでスタジアムに残って100歳の誕生日を喜んだ。

【画像】SNSフォロワー数が1600万超! スイス女子代表のブロンド美女、アリシャ・レーマンが魅せる厳選ショット集をお届け!

「歴史を感じます」。そう選手たちが口を揃えた一戦で、伊藤涼太郎が艶やかなループシュートで決勝点を決めた。37分、GK鈴木彩艶が右WBロベルト・ヤン・ファン・ウェセマ―ルにパスを出すところから始まった攻撃は、FWアブバカリ・コイタのポストプレーから伊藤が仕留めて完結した。

「縦パスがコイタ選手に入ったところで、『自分が前向きでサポートできたらキーパーと1対1の形までいける』と思った。人とボールが流動的に動く、チームとして狙っていた形です。フィニッシュのところは自分のアイデア。最初はシュートを流し込もうと思ったんですが、GKが前に出ていたのでループを選択しました」(伊藤)

伊藤が攻撃のヒーローなら、鈴木は守備の立役者だった。この日は前半と後半にそれぞれ1回ずつ、貴重なセーブを披露。33分、ウェステルローが右サイドから仕掛け、4本のシュートを続けて撃った。ペナルティーエリアの中に両チーム合わせて10人のフィールドプレーヤーが入り乱れる。ボールが何度も鈴木の視界から消え、4本目のミドルシュートも伊藤のブロックをすり抜け、さらにウェステルローの選手がコースを変えてきた。この難しいシュートを、鈴木は横っ飛びしてCKに逃れている。

「ブラインドのシュートが多い中でも、とにかく自分が届ける範囲を確実に防ごうと準備していた。最後見えてきたところで、しっかりと対応できたのでよかったです」

大詰めの88分にはDFジョーダン・ボスとの1対1になり、浮き球を突くようなシュートを確実に身体に当てて防いだ。

「嫌なバウンドと言いますか、ボールが宙に浮いていたので、無理にアタックするより、確実に“面”を作って身体に当てようとした。そこができたので、良いセーブだったと思います」

前節、アンデルレヒトに1−4という大敗を喫していただけに、悪い流れを断ち切る貴重なクリーンシートだった。前回の反省を活かして「ビルドアップでイージーにやるところはイージーに」「後半の立ち上がりで失点したので、そこの締め直し」「集中力を切らさず、最後までコーチングを続けること」を意識し、それを結果に結びつけた。

【PHOTO】アジアカップ2023を彩った各国美女サポーターを特集!

アジアカップから3週間ほど経った。ベルギーに戻ってから鈴木は3試合プレーし、1−0の勝利を2度モノにしている。カタールの地で批判の集中砲火を浴びた21歳は、よりタフになって戦っている。

「あの時期は無失点(ゲーム)をまず達成できなかった。キーパーは失点数を減らすことが一番。アジアカップの振り返りとして、(STVVに戻ってきてから)攻撃よりまず守備でやらせないことに重きを置いて取り組んできました。ベルギーに帰ってきてから1試合目が失点0。2試合目に4失点してしまいましたが、今日は失点0にこだわってプレーすることができました。これを続けていきたい」

それにしてもメディア、ファンの声が酷すぎた。メンタルは大丈夫だったろうか?

「キーパーとしてミスをたくさんしましたし、いろいろな声があるのは受け入れなきゃいけない。その中でも、日本代表の守護者になるために、プレーでしっかりと見せないといけない。振り返ると、やっぱり自分ができることがたくさんあったので、自分の修正点に重きを置いて考えた。自分が防げたなっていうシーンはたくさんありました。ああいう舞台に戻れるように、しっかりとこのチームで活躍したいなと思います」

渦中の鈴木に対し、浦和レッズのGK西川周作はXに「GKチームで応援しているよ。大丈夫。GKにしかわからない事たっくさんある」などと熱いメッセージをポストした。先輩GKの励ましははさぞかし嬉しかったのでは?

「そうですね。共にプレーしていた先輩ですし、その選手から声をかけてもらって、自分も勇気づけられましたし、本当に嬉しかったです」

昨年末、STVVのトルステン・フィンク監督は鈴木について「GKは試合に出て失敗を繰り返して成長するもの。ザイオンもそう」と言っていた。鈴木自身、フィンク監督から日頃言われているのではないだろうか?

「はい。(STVVは)攻撃的にビルドアップするサッカーなので、そこにトライしています。今日も自分のパススタートで得点に繋がりました。逆にそれが失点につながることもありますけど、監督はそこに対して『やっぱり得点になることもあるし、失敗をすることもあるだろう。どんどんトライしろ』ということを常に言ってくれているので、自分は思い切ってプレーできていると思います」

ビルドアップでチームの決勝点に絡み、守備ではビッグセーブでウェステルローを封じ込んだ鈴木に、地元のファンは「まだ不安定なところもあるが、ポテンシャルは間違いない。すぐにSTVVからステップアップしていくだろう」とエールを贈っていた。

取材・文●中田 徹

© 日本スポーツ企画出版社