交際相手への怒り、矛先は2歳児に 肘を逆向きに折る虐待、男が法廷で露呈した「弱さ」

3人が同居していたアパートのすぐ近くには、近所の子どもが集まる公園がある。ばらばらになった3人が今後歩む道は平坦ではない(大津市内)

 大津市のアパートで、2歳の男児が、母親の交際相手の男(24)から肘を外側に折られるという事件があった。法廷に被告として現れた男は、細身で目が大きく、繊細そうな印象を受ける。ごく普通に見える青年を残虐な行為に駆り立てたものは何だったのか。

 一昨年10月、男がアルバイトをしていた飲食店に母親が客として訪れ、じきに交際に発展した。昨年1月から3人で同居をスタート。だが、母親は夜に仕事に出ることが多く、男が専ら男児の世話をしていた。

 事件が起きたのは昨年2月28日。その夜も母親は外出し、男は男児のために夕食を作った。男児は苦手な食べ物を皿の隅によけ、男が残さず食べるように言うとスプーンを放り投げた。

 腹を立ててリビングを出たところ、泣き声が聞こえる。椅子から落ちて肘を打ったようだ。「自分が悪いんやろ」と言って保冷剤で冷やそうとすると、男児は腕を振って拒否した。激高した男は、凶行に走った。

 11月30日の法廷。男は上下とも黒色の服に身を包み、経緯を語った。

 「彼女と頻繁にけんかになった。別れ話をしたら自殺しようとする。いらいらするようになった」

 弁護人が質問する。「彼女ではなく子どもにいらいらをぶつけたのはなぜか」。男は「彼女にぶつけると自殺未遂をする。本当に死んでしまうと思った」と答えた。

 自身は決して暴力的な性格でないという。「彼女と別れたくなくて親にも友人にも相談できなかった。今後は相談して解決していくようにする」

 そう言って反省の色を示したが、続く検察官の質問ではさらなる「弱さ」が露呈した。「帰宅した母親に、椅子から落ちてけがをしたと伝えたのはなぜか」との問いに、「自分がけがをさせたというやましい気持ちがあった」。うそをついて発覚を逃れようとしていた。

 1カ月ほどたつと、折れた肘が緑色に変色することがあったという。「心配になった」とは言うが、それでも医療機関に連れて行くことはなかった。そればかりか、友人に偽の診断書を作らせ、母親をごまかしていたという。

 整骨院を訪れたのは5月に入ってからだ。6月に整形外科を訪ね、最終的に、守山市の滋賀県立小児保健医療センターで治療した医師が児童相談所に知らせた。この医師は「早期に受診しなかったため、後遺症が生じる可能性が高い」と診断している。

 裁判官が嘆く。「どうしてすぐに連れて行こうとしなかったのか」。男は「犯行がばれるから」とうなだれる。自己保身のために、幼い子どもが犠牲にされた。

 12月21日の判決で、男には懲役1年6月の実刑が言い渡された。

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 親密な関係性の中で感情が不安定になり、自傷行為を繰り返すことがある。母親の激情の渦に、男ものみ込まれていったのだろうか。男の暗い瞳を見てそう思った。法廷で自ら口にしたように、苦しんでいることを誰かに相談していれば事件は起こらなかったのかもしれない。

 男児は3歳の誕生日が近かったが、十分にしゃべることができなかったという。男は育児経験のある姉に相談し、男児はようやく「いただきます」が言えるようになった。当初は2人で男児を育てていくことを夢に描いていたのだろうか。

 逮捕後、男は交際を解消し、男児は母親と離れて過ごしているという。つらい目に遭った幼子が、今度は穏やかな環境で育つことができれば。街中で幸せそうに歩く親子を見て思った。

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