米国がイスラエルを擁護する「矛盾」 露呈するリーダーシップの限界…ウクライナ支援の結束にリスク

破壊されたウクライナ・キーウのショッピングセンター(misu/stock.adobe.com)

最近、米国は自らの存在感やリーダーシップの限界を露呈している。バイデン政権は20日、パレスチナ・ガザ地区での人道的な即時停戦を求める国連安保理の決議案に対し拒否権を行使した。

イスラエルによる容赦のない攻撃に諸外国から批判の声が強まる中、この決議案に対して日本やフランス、中国やロシアなど安保理15カ国中13カ国が賛成に回ったが、米国のみが反対した(英国は棄権)。昨年10月に衝突が激化して以降、今回の決議案を含めこれまでに4回の即時停戦を求める決議案が安保理に提出されたが、米国は全てのケースで拒否権を発動している。今回の拒否権発動について、中国やロシアは当然のごとく米国の行為を強く非難し、フランスやスイス、スロベニアなど欧州の安保理理事国からも失望や不満の声が上がっている。

最近は攻撃の手を緩めないイスラエルのネタニヤフ政権に対し、諸外国からの対米不信を懸念するバイデン政権も強い不満を示しているが、イスラエル情勢における米国の一貫した姿勢は自らの存在感やリーダーシップの限界を露呈している。

ロシアによるウクライナ侵攻から今月で2年となるが、バイデン政権はウクライナ情勢を台湾情勢と同じく民主主義と権威主義の戦いと位置づけ、友好国や同盟国に対露で結束を呼び掛けるなど、ウクライナへの軍事支援で先導に立ってきた。これまでの米国による軍事支援は日本円で6兆6000億円に上るというが、最近はロシア軍がウクライナ東部ドネツク州の要衝アウディーイウカを完全制圧するなどロシア有利な状況にある。

そのような中、バイデン政権は国内外に対してウクライナ支援の継続など対露結束を呼び掛けているのだが、それは一貫したイスラエル擁護の姿勢とダブルスタンダードだと言わざるを得ない。

自由や人権、民主主義という価値観を守るため、ウクライナへの支援継続を呼び掛ける米国であれば、本来ならパレスチナの人権を守るという意味でイスラエルに対して攻撃の停止を強く求め、安保理における即時停戦を求める決議案でも率先した行動が求められるはずだ。そういう意味で、今日の米国は自らの存在感やリーダーシップの限界を露呈しているに過ぎず、イスラエル擁護はウクライナ情勢における対露結束を減退させることになる。

そして、これは中国やロシアを大きく利することになるだけでなく、第2次トランプ政権の誕生によって米国の立場はさらに難しいものになる。トランプ政権は基本的にバイデン政権よりイスラエル擁護の姿勢なので、それを好機と捉えたネタニヤフ政権はいっそう厳しい姿勢でパレスチナや親イランのシーア派武装勢力に臨んでいく恐れがある。

また、トランプ氏はウクライナ支援を停止する意思を明確にしているので、ロシアの優勢は決定的なものになり、対露結束が崩壊するだけでなく、欧州との間では分断が進むことは避けられそうにない。世界で存在感とリーダーシップを発揮してきた米国が、今後再び我々に顔を見せることはもうないだろう。

◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。

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